舞台は現在。ザカリー・ハーニー大統領は再選に向けて非常に厳しい状況に置かれていた。対立候補のセジウィック・セクストン上院議員は有力なバックを持つ強敵で、NASAの予算を削減して宇宙事業を民間に移すという公約を掲げている。この公約で得をする膨大な数の有力者が、業界の垣根を越えてセクストンの支持にまわっていた。その背景にあるのが、1996年の醜聞事件だ。NASAは当時のクリントン政権に、地球以外の惑星に生命が存在した証拠が見つかったと報告した。だが、のちにこの報告は、誤りとは断定できないまでも、少なくとも時期尚早であったことが判明したのだ(これは実話だ。繰り返すが、ダン・ブラウンの調査はきわめて、きわめて正確だ)。四面楚歌状態のハーニー大統領は、北極の氷中に埋まっていることが判明したきわめて珍しい物体が、米国の宇宙計画に甚大な影響を及ぼすものであると確信する。だが、それには確かな証拠が必要だった。
ここで、国家偵察局の情報要旨作成者レイチェル・セクストンが登場する。複雑な報告書を1枚の概要にまとめるのが要旨作成者の仕事だ。今回の発見を大統領が国民に発表するためには――そして再選を確実なものとするためには――動かぬ証拠が必要だった。だが、ここで微妙な問題が絡んでくる。レイチェルは対立候補であるセクストンの娘なのだ。にもかかわらず、レイチェルは喜び勇んで調査チームに加わり、北極圏へと向かう。彼女は父親の政治活動には現実的な態度を取っているうえ、彼のNASAに関する方針にはほとんど敬意を持っていないのだ。だが、セクストン上院議員が娘の任務を受け入れられるはずはなかった。
冒険、ロマンス、殺人、不正行為が次々と巻き起こり、ハラハラするような緊張感が続く。『Deception Point』を読み終えるころには、米国の宇宙計画の裏側や新情報に対する政治家の反応に詳しくなっているはずだ。ダン・ブラウンの次作が待ち遠しい! (Otto Penzler, Amazon.com)