本書は、夢枕獏の公式ホームページ上で連載されたものである。あとがきにもあるように、本書は小説というより、絵本として作られた。村上は、夢枕の「陰陽師」シリーズの装画をずっと担当してきた。夢枕は以前から村上と「本文と絵が等分に入った物語」をやりたいと思っていたという。
民話「コブ取り爺さん」を下敷きにしたストーリーには、いつもの陰陽師シリーズにあるオドロオドロしさはない。むしろひょうひょうとした温かみのある雰囲気に包まれている。それは、ここに収められた村上の40点以上にもおよぶカラー絵によるところが大きい。彼が描く物の怪たちは、どれもひょうきんでかわいらしい。安部晴明や源博雅も、たちまちユーモラスなおじさんになってしまう。
さらに、通常の単行本よりは薄く小さい本のサイズや、表紙の手触りが和紙のそれに似て、いつもと違う雰囲気を肌で感じることができる。(文月 達)