訳文は良い 注釈の分量で上巻とのバランスが崩れた
★★★★☆
人が天から与えられた性は善だとする性善説を全面的に主張した孟子の言行録を上下巻に編纂したものの下巻です。
原文を短く区切り、書き下し文、現代訳を附記していますが、訳文については私自身は納得しています。『仁義礼智・孝悌を主な徳行として励行する』哲学は、四書さらには五経へと遡り、四書・五経のお互いの関連性をやはり感知させてくれます。訳文の是非もさることながら、下巻からは著者自らの判断で一般の通説や異説までも注釈にのせた結果、本の厚さが上巻の倍になるくらい注釈が膨大な量となり、上巻との内容的なバランスが崩れています。上巻から引き続いて本編を読みこなすには、注釈のあまりの多さに辟易するかもしれません。少ない注釈が載った上巻か、膨大な量の注釈が載った下巻か、どちらの☆を減らすかか迷いましたが、結局双方著者渾身の作とみなしました。
儒教と聞いてイメージするような著作
★★★★★
下巻は、離婁章句上下巻、万章章句上下巻、告子章句上下巻、尽心章句上下巻の計八巻を収録。上巻よりはさまざまな立場の人へ向けてその言葉を向けているように読める。特に告子章句での論争ぶり、尽心章句での言葉はルソーの社会契約説を思わせる部分(下巻十四)、オバマ大統領が演説で引用した部分(下巻二十一)など、特に印象に残るものが多い。
上下巻通して考えてみると、仕える者・仕えられる者の心得、学ぶもの・教えるものの心得を主に語っていて、仁義礼智・孝悌を主な徳行として励行する、という普通に連想する儒教の教えを展開している。大学や中庸の核となる主張もあるし、「論語」と「孟子」を通して読めば、少なからぬ人がキリストとパウロ、ソクラテスとプラトン、といった関係を連想するのではないか。
日本への受容に際して易姓革命をはじめいろいろな問題があったそうだが、そんな火種にもなれば、仕えることで生きている人には心の慰めにもなるだろうし、上に立つ人には訓辞のネタになるのかもしれないし、いろんな読み方のできる書物だと思う。
また、新渡戸稲造の説く「武士道」にも四書の中で一番影響を与えているようにも読めるし、吉田松陰も注釈書を書いているようで、日本思想の一つの鍵にもなっているのだろう。
訳文は少し砕けた調子でルビ読みも多いので好みが分かれると思う。機会があれば、ほかの訳も読んでみたい。
四書は政治家に必読の書です
★★★★★
吉田松陰・西郷隆盛・河合継之助…、幕末の明治維新は孟子が起こしたと言っても過言ではあるまいか。
論語・大学・中庸とならんで四書の一角を占めるこの書は、修養を志す方や政治家を夢見る方々には必読の書といえるかもしれません。
本当に思いやりのある政治学ですね。この思想をもって政治を行ってほしい。そう思える書物です。一度じっくり、和訳部分だけでもいいので読んでみてほしいです。
政治とはいかに為政者の志が大事であるかが、よくわかります。