あまりにも明快過ぎて
★★★★☆
不朽の名著とも言えるでしょう。初版が発行され30年経った今でも、版を重ねているのがうなずけます。異常な事件が増え、家庭崩壊が増えている今、むしろ、この本の輝きが増しているようにさえ思えます。家族の問題を考えるとき、一度は読んでおくべき一冊だと思います。
ただし、取扱いには要注意の本だと感じました。出来過ぎと思える程の明快な論理で、読者を分かったような気にさせてくれます。家族の問題を母性原理や父性原理を切り口にして解説し、神話なども使いながら欧米と日本との比較までされています。
人間の本能的な欲求や、成長段階に応じて現れる心理は、太古の昔からあり、神話の中に描かれるのも、不思議ではないでしょう。神話も、比喩的に使えば、心理の説明には、大変便利だと思います。
しかし、現実の問題には、もっと複雑な部分もあり、この本で展開されている理屈だけでは説明しきれない心理、例えば、トラウマの問題など、まだまだ色々ありそうです。貴重な着眼点と視座を教えて下さっていますが、これだけで割り切ろうとすると、怪我をしかねない危うさを感じ、星を一つ減らしました。
家族の不思議を教えてくれる
★★★★★
「家族関係」に悩むことが多く解決の糸口になればと思い本書を購入しました。
著者があとがきに書いているように、この本はこんな時はこうすべきというようなHow to本ではありません。悩みに対する具体的な対処法が書いてあるわけではないのですが、家族、つまり父母や兄弟、夫婦関係の心理的な内面について詳しく述べられており、得られる情報は多くそして深い。家族の構成員に対しそれまで持ち得なかった視点を得ることができました。無論悩みに対峙し解決していくのは私本人でしょうが、今後の人生について何かしらのヒントとなるものを本書より得られたのではないかと思います。
文章は平易で、著者の心理療法家としての経験から具体例をあげ丁寧に説明してくれるため読みづらさは全く感じませんでした。1980年前後に書かれた文章ですが、その内容は決して古くなっていないところに家族関係の普遍性を感じます。私にとっては珍しく、多くの方に読んでもらいたいと感じる本でした。
家族のダイナミズムを読み解く
★★★★★
新しく家族を作ろうとする人や、いま家族の中で悩んでいる人に、ぜひ手にとって欲しい一冊。
現代日本の「保水力」を失った社会の中で孤立しがちな家族に生じる困難や、家族内のダイナミズムを丁寧に読み解く良書。
読む人が、子ども、妻、夫、父、母、舅、姑…いずれの立場であれ、本書の中に自らの理解者を発見し、力づけられるであろう。
そして、理解しがたいと思っていた自分の家族たちのことを、少しは理解できるようになるのではないだろうか。
書かれた時期的に、若干の社会背景の変化はあるものの、日本人の家族の深層を読み解く鋭さは現在でも十分に通用する。
著者は先日、大変残念なことに故人となってしまわれた。
しかし著者の残した書籍は、今も読む人に力を与え続ける。