応病与薬
★★★☆☆
他の著書、1980年出版「家族関係を考える」(講談社現代新書)は、体系的な組立で、理路整然とした印象でしたが、この本では、具体的な事例に沿って解説されています。基本的には同様の論理展開ですが、語り口には、円熟味と言いますか、読む人の心にじんわりと沁み込んでくるような温かさがあり、24年の歳月を感じます。
母性原理、父性原理、神話の比喩を交えながら、普通の家庭で身近に起こりそうな心の問題を、生まれてから老人に至るまでの発達心理に沿って語られています。
「家族関係を考える」より、具体例を増やし、先生の理論をどう適用したら良いか、「応病与薬」の言葉のように語られています。
ただし、トラウマや共依存については、「家族関係を考える」と同様、表立っては触れていません。この根深く深刻で頑固な病は、虐待に伴い起こりやすい心の病です。普通の家庭には、無縁かもしれませんが、一歩間違えば、虐待を引き起こす危険性は十分あります。
質問に答える形で書かれていますので、質問者が気を利かせてこの問題には触れないようにしているのかもしれません。先生の研究のなかには、この問題は入っていなかったのかなぁ?
ままならない事を、学びのチャンスとして楽しむという事
★★★★★
前半は割と読み流したのですが、
後半は引き込まれるように、多くの箇所に横線を引きながら、
多くのページの角を折りながら、
興味深く、また共感しながら読みました。
一読するだけではもったいなく、現在、再読中です。
日本の未来にとって、たいへん大切な方を
昨年、私たちは失ってしまったんだなぁ、というのが
第一の読後感でした。
これから私たちが、河合さんの御意思を継いで、
人間社会を立て直して行かなければならない、
「ちゃんと」子供たちを育てて行かなければならない、
自分たちも努力して行かなければならない、
と改めて思いました。
「ちゃんと」と言っても、
それは、ただ単に「正しく」とかいう意味ではなく、
子供たちの「こころ」や「情緒」というものを大切に育てて行くという事。
モノのように、マニュアルに基づいて育てるのではなく、
「子供は思ったようには育たない」ということを前提として、
ままならない事を、親も子も学びのチャンスとしてとらえ、
お互い成長していこう、というスタンスでやって行く事。
そういう事が大事なのだと
河合氏はおっしゃっていると思います。
また、日本では昨今スピリチュアルブームですが、
河合氏の本を読むと、なるほど、と思わせられます。
モノは溢れている今の日本の中で、
論理的でないこと、目に見えないことは蔑視されがちですが、
多くの人は「何か違う」という空しさを感じ、
モノで心は満たされない事をわかりつつあります。
そんな中、当たり前とも言える道理を説きながら、
夢もあるスピリチュアリズムというものに人は心を引かれるのでしょう。
問題が山積みの日本で、
まだまだ河合氏にはご活躍して頂きたかったと思いますが、
きっとこれからは、空の上から見守ってくださり、
ときには何かを通して助言等いただけるのではないでしょうか。
まずは、自分の子供たちと
よろずの神様に手を合わせる習慣をつけようかと思ったりします。
子供を良くする無料で最良の施設、それが家庭です、という結びの言葉が光った。
★★★★★
明治から現代にいたる日本の家庭、父親と母親の役割、それぞれ良かった点、悪かった点について、これほど鋭く本質を見据えて読み切った著作に、私は以前お目にかかったことがありません。ことごとくおっしゃる通り!と、ひたすら共感しました。
例えば、次のような考え方。
◆昔のようにものが不足し不便な世の中の方が、子供は親のありがたみを感じ真っ当に育つ。
(これからは、贅沢を制限する感覚を養っていかねばならない)
◆昔の日本の父親は強かったという意見があるけれど、それは単にいばっていただけで父性原理としては実はとても弱かった。
(世間の笑い者になるな、というのはむしろ母性原理))
◆これからの日本には、過去にない全く新しい父親像を作る覚悟が必要だ。
(家の外では農耕民族の辛抱強さ、家の中では砂漠遊牧民の厳しさ)
◆日本の親は、子供達の無意味な競争に無駄な金を使っている愚かさに早く気づくべきだ。
(もっとそれぞれの子供の個性に目を向けるべき)
一見使われている言葉は平易ですが意味するところはとても深く、一回さーっと読んだだけでは全てを正しく理解できないかもしれません。
私は2回続けて読み、ようやくその深い造詣にしみじみと触れたような気がします。
時間をかけてじっくり味わって読んで頂きたい本です。
家族問題から見た日本社会
★★★★★
若い人にも読んでもらいたい一冊である。
家族問題に関する質問に対して著者が答える、という形式で本書は書かれている。平易な言葉で書かれているので、読者は著者の講義を受けているような感覚となる。
家族とは何なのか、父親・母親の何が問題なのか、子どもにとって良い家庭とは、家族の問題にどのように対応すればよいか等の質問に対する著者の回答は、家族、親子関係に影響を与えている社会の変化にも言及している。このため、著者の回答は、実際の子どもを持つ読者はもちろん、日本の社会の変化に関心を持つ若い人々にも参考となるのではないか。
「家族のあいだの温かい人間関係に支えられてこそ、本来の自分らしさを生きられるのです」(47頁)、「昔は、大人になるための情緒とか、そういう面での訓練がありましたが、いまはそちらのほうが極端におろそかになっています」等の著者の主張は傾聴に値する。何度も読んでみたい本である。
河合センセらしい一冊
★★★★☆
家族の問題に臨床の最前線で取り組んでいるカウンセラーの方々からの質問に対し、河合センセが答えるという構成で、日本の家族問題を論じられています。
質問に答えつつ語られていることは、「昔ながらの『イエ』というものが崩壊し、祖父母と同居することで保たれていた秩序が、戦後には核家族化し崩壊した。家族内で問題が起こる例として、昔であれば『イエ』にあった機能(祖父母の躾など)がなくなったために起こっていることがある。そのような問題に直面した時には、まず今ある状態をマイナスからゼロに戻すということではなく、将来的に問題が起こった経験をプラスに転じるためにはどうするかを考えるべき。そして、それは「イエ」がなくなった今、新たな「家」としての家族の中で考えていくべき」といったことです。
そのための家族、夫婦、父親、母親についての考えが各章で語られています。
これらの文章には、昔の「イエ」という概念ほど明確化していない、これからの「家(家族)」についての方向性が示されていると思いますが、明確な形が示されているわけではない中で、自分達がしっかりと構築していかなければならないと痛切に感じます。
ウチの子ども達はまだ小さいですが、その子ども達に自分なりの考える父親像を見せていきたいと考えさせられました。
そんな前向きな気持ちにさせてもらえる一冊だと思います。