本著は記載されているとおり、明らかに経済学的な領域を越えた議論を展開している。本書の大部分を割いて、政府の役割、ウォール街の人々の行動等が実体経済に与えた(であろう)影響を記載している。それ自体は悪いことでは決してないが、原因となった事象と結果を言葉のみで説明しているため、どのような過程を経たのか、また、経済指標で表すとどういうことなのかよくわからない。例をあげると、クリントン政権が実現した増税による財政再建がある。通常増税は景気を冷やし、結果的に財政再建を実現できないことが多いが、なぜ実現できたのかという経済学的に見て極めて重要な点の説明がほとんどない。
悪く言えば、経済学的な議論をあえて超越(するかのように)して、実証的な分析を回避したともとれなくもない。
キーメッセージは「政府も市場もいずれも完全ではない。それぞれの限界と役割があり、それらを理解した上でバランスの取れた政治を行う事が肝要である。失業率は 単なる数字ではなく本当に不幸に見舞われている人々が存在する事を忘れてはいけない。完全雇用を実現し、かつインフレを回避する政策は複数存在する。最貧困層を見捨てれば、そのような社会は大きなコストを負担する事になる。集団行動は必要で利己的な野心は個人・国家いずれのレベルでも規制されなければならない」、等 少々難解な感は否めませんが良く分かりました。
また、米国政府が非常に利己的で自国の富裕層の利益しか考えておらず、それを欺瞞で押し隠し、他国の利益になると信じ込ませて破壊的な米国主導のグローバリゼーションを実行してきた事も良く分かりました。
一読の価値 有りと思います。