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The Kiss

価格: ¥2,333
カテゴリ: ペーパーバック
ブランド: Harper Perennial
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   読むと痛い本がある。読み始めると催眠状態に入ったように、心も体もひりひりさせながら、読み通すまで下に置けない。これはそういう本だ。覚悟がいる。

   父と母は17歳で出会って結婚し、やがて娘が生まれるとすぐに離婚。母は支配欲の強い祖母から自立しようともがくあまり、愛を求める幼い娘に十分にこたえてやれない。幼い娘は深く傷つきながら成長する。父は牧師になって遠く離れた町で、新しい家庭を築いている。

   10年ぶりに、別れた妻の家を訪れた父は、美しく育った娘の姿に息をのみ、20歳の娘はハンサムな父に心を奪われる。こうして2人は惹かれ合い、これまで失われてきた父と娘の関係をとりもどそうとする。自分の半分がどのような人によって形成されたのかもっと知りたいと思いながら、娘が父を見送りに行った空港で、それは起きた。別れ際に父が娘を抱きしめて、ディープキスをしたのだ。

   そのキスが「サソリの毒針のように、口から脳に広がる麻薬」となって「意思の力を放棄」させ、麻痺が始まる。やがて2人は近親相姦の暗い谷底へと落ちていく。だが、娘を執拗に求める父の愛とは「おまえは神様がわたしにくださったものだ」として、娘をどこまでも傲慢に支配しようとするものだった。

   母と娘の確執。その母を支配する祖母の影。ヴィクトリア朝時代を思わせる祖父の生活。裕福な家族から追い払われるという屈辱的な扱いを受けた父。その父との覚めない悪夢のような関係。呪文が解け、娘が呪縛から解放されるのは、母が乳ガンで死亡した瞬間だった。

   著者自身の体験に基づく回想記とある。この重い体験にハリソンはメスのような、鋭く精緻な、削りに削ったことばで切り込み、人間の心理の奥底をえぐり出そうとする。その勇気と知性と、並はずれた技量は、ありふれた形容を寄せつけない。硬質な透明感に貫かれた、まことに稀有な作品である。邦題は『キス』。(森 望)