次々と家族を失い、寄り添うように生きてきた父と娘の絆の深さを感じる。その偉大な父の死後、大きなものから切り放された、まさに「ちぎれ雲」のような心境がつづられている。そんな懐かしさのにじむ穏やかな文章の中で、父、露伴が死の床で苦しむ場面(「終焉」)とカマキリのくだり(「このごろ」)が一際リアルで心に残った。
はずかしながら幸田露伴の作品に触れたことはないのだが、ちょっとのぞいてみたいという気持ちにもなった。