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台所のおと (講談社文庫)

価格: ¥540
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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何気ない日常にある非日常 ★★★★★
10個の短編を集めた小説集、一度図書館から借りてよみ、ずっと心に残った「台所の音」。

人の立てる音から、その人の機嫌をわかったりすることもある。
それが、自分にとって思い入れのある相手だったら、もっと心に響くのだろう。
響いた音は、言葉となって戻る。
戻った言葉は、ともすれば取り乱してしまいそうなもかそうな心持を顕にする。

音、情景、行動そして思い出。そこから端を発っせられる言葉。

人との関わり方は単純明快ではないけれど、本心は言葉からのみわかるものではないのだろう。

この小説集は、幸田文さんが大正時代から昭和始め頃に見聞きした事をベースにしておられると思う。着物を着て暮らした時代、だが読み返して見れば、表題作「台所の音」もいいけれど、「雪もち」や「祝辞」も読み返してみれば今に通じることがあってずいぶん新鮮にうつった。

星いつつの評価は、そもそも幸田作品が好きだというバイアスがあるのだけれど、手元に置いて時折読み返したい本だと思った。
美しい日本語 ★★★★★
表題作の台所の音が一番お勧めです。
清貧という言葉がぴったりな一組の夫婦の話です。
日々の営みや、お互いの思いやり。
それらを表わす美しい表現の数々。

日本語の美しさを堪能できる一冊です。
日本語の至芸 ★★★★★
幸田文の文章をはじめて読んだが、表題作「台所のおと」には驚いた。これは日本語のひとつの完成形であるといってよい。平仮名と漢字の混じり具合が絶妙なのだ。他の作家に比べて、平仮名の使用率が高いのはまちがいない。あえて漢字の使用を制限していたのかどうかは私は知らないが、そうすることによって見た目にも圭角の取れた文章になっているといえばよいだろうか。ゆるやかに流れる川の流れのようでもある。

さらに、次のような一節は非常に印象的だ。前半で書かれる、主人公の女性あきの1回目の結婚についての文章だ。

場所は、男と世帯をもつことによつて与えられた。これで休むことができると思つたが、男の母親は、あきがつとめをやめて、収入をなくしたことを不満がった。酒にだらしのない、グズ酔の男だった。みごもっても二度とも流れた。流れてちょうど好都合に思えた。そこにそうして何年かいられたのは、常にいつでも何処へでものがれて行けばいいのだという漂白性があつたからで、逆に落ちついていられたらしい。

「漂白性」という抽象度の高い言葉を幸田文が使うことは稀だが、逆にいえばこの場面ではその抽象度とほかの言葉との平明さの絡み具合が絶妙で、むしろ文章が活き活きとさえしてくる。日本語の日本語たる所以がここにあるように思える。そしてまた漢字変換が醍醐味であるワープロが当たり前になってしまったこの時代に、平仮名がこれほどまでに効果的に用いられている文章を読むことのかけがえのなさをを思う。
背筋を伸ばす ★★★★★
幸田文さんの作品は、凛とした文章と相まって、読んでいて姿勢を正したくなるものが多いのですが、その中でもこちらの作品集の標題作「台所のおと」は格別です。
背筋が自然と伸びます。

疲れてどうでもよいやと思ってるときの雑な包丁の扱いに、
いらいらしているときの八つ当たりのようなガツガツした切り方に、
ふと気づいた時、「台所の音」の一節を思い出し自分が恥ずかしくなった事が何度あったことか。
そういう時は、姿勢を正し、作品の教えに寄り添うように、丁寧に丁寧に作業をするのでうsが、そうしていくうちに、自分自身が立ち直るのを感じてほっとするのです。
自分だけかと思っていたのですが、友人達にも多数、同じ経験をしている人がいました。

それだけ彼女の作品は読み手の生活に直接訴えかけるものがあるのだと思います。
そしてそれは彼女の作品が、例えば、台所の音、ぞうきんのかけ方(「父・こんなこと」参照)、外の景色の移り変わりをきちんと感じ取ること(「流れる」など)、着物の選び方(「着物」など)など、
そういった一つ一つの日常茶飯事を丁寧に見つめ、身体にしっかり身につけてきた中で生まれてきた物だからだと思います。
だから凛とした彼女自身の背中を見つめるような気分になって、「私もきちんとしなきゃ」と思えるのだと思います。
また、彼女のそういった視線は人の心の機微にも同じように注がれています。だからちょっとしたエピソードがとても心に響く。
その点では、この作品集所収のものでは「濃紺」という作品がお気に入りです。

そうそうある友人は「生活がおろそかになっているなと思ったら幸田文を読むのが一番効く」と言っていました。
素晴らしい作品はたくさんあるけれど、読み手の生活を変えちゃうっていうのは文さんの作品ならではだと思います。
涙が浮くほど美しい文章 ★★★★★
これまで、日本文学をどうしても読めなかった私が初めて夢中になった本。

とにかく美しい。
日本語とはこんなに美しいものだっただろうか。

凛としていて、程よい緊張感と張りのある語調。
風景、音、熱や空気の震えまで感じてしまいそうな
だけど決して特別な展開も意外な結末も起きない日常の話。
この筆者はおそらくヒトに対して、感情に対して
恐ろしく鋭い観察力を持っていたのだろうなぁと思いました。

日本の文学なんて無理!と思っている人にこそ薦めたい。
私は読んでいて小津安二郎映画っぽいなと思ったのですがどうでしょう??