著者がもつ全ての言葉の投入を妨げるほど、私達読者の言葉に対する力が劣っている、と判断されたのか、と思うと悲しい。
抉るような力強さを削った文章は、娘・青木玉さんの文章に意外なほど似ている。
幸田文さんのエッジの聞いた言葉、文体を楽しみたい向きにはやや味の足りない一冊でもある。
同じネタを使わない著者が、ここへきてネタの重複を見せた。
人生の決算書のようでもあり、走馬灯のようでもある。
単行本の表紙は、著者のきものの裂から娘が見立てたものだそうだが、文庫本の表紙は植物の写真。
着物の裂の表紙にして欲しい。
季節のうつろいや、ともすると見落としてしまいがちなほんとにささいな出来事も、この方の手にかかるととても美しいものとなり、女性としてこの感性を見習いたいと思うほどです。
時代的には「古きよき」という感じですが、読み進むにしたがって背筋がまっすぐしてきますよ。
私は子育てでイライラし、つりあがったまゆ毛をさげるために、時々取りだして読んでいます。
(心が落ち着くのです)