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日本の歴史〈9〉南北朝の動乱 (中公文庫)

価格: ¥1,337
カテゴリ: 文庫
ブランド: 中央公論新社
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南北朝時代の重要な基礎文献 ★★★★★
中世期の白眉とも言われており、単行本でありながら現在でも南北朝期-室町時代の研究に於いて重要な基礎文献として色あせない書籍である。
冒頭より、戦前の南北朝研究の問題に触れ、大義名分論による歪んだ解釈と平泉澄による国家主義的な南朝正当論の批判を行う。その際に、「田中義成に戻れ!」と大正時代に刊行された南北朝時代史に書かれた学問としての室町時代こそ需要であると述べる。
後醍醐天皇による討幕運動の終焉と、建武新政からはじまるものの、貴族たち保守層を無視した政策や、足利尊氏による反逆など、離合集散によるカオス化する建武新政が崩壊する様を後醍醐天皇の特異性や、当時の武士倫理など複眼的な原因より後醍醐新政の批判を行う。又、京極佐々木などばさらによる悪党達の活動が、当時の貴族達権威の失墜を表したりしてるが、政治力を失っただけではなく矜持すら無くした貴族達が崩壊したのも自業自得とする佐藤の批判は手厳しい。

既に、評者の人生以上に時間が経過している本とは思えない。他の評者が語るように、優秀な研究は未だに色あせない。学問とはかくあるべきであろう。
古文書学の泰斗による歴史叙述−現在でも最高レベルを誇るシリーズの一書− ★★★★★
他の方もレビューで記していらっしゃるが、本シリーズは通史としての日本史の草分け的な存在である。
 初版以来(当初は箱入りのハードカバーであり、それがペーパーバックそして文庫へと軽装化してきた)40年余りの月日が経過しているが、同様なシリーズが多く刊行されてきた中にあっても本シリーズは執筆陣・叙述の両面から見ても他を大きく引き離す存在である。とりわけても“中世編”にあたる7〜12巻は現在でも最高レベルの叙述と呼ぶことができる。そんな中にあって殊にこの『南北朝動乱』は以降の中世史研究をリードしてきた原点とも呼ぶことができる。
 著者の専門は中世の法制度史であると同時に古文書学である。その歴史叙述のスタイルは厳密な史料解釈に基づく一方でダイナミズムに溢れている。史料の行間から中世に生きた人々の息づかいが伝わってくるような想いすら感じ取ることができるのは、著者が史料に誠実に向き合い、それを歴史の中にどう位置づけるかを常に意識していることの結実であろう。
 ともすれば“尚古趣味”との世間的イメージが付きまといやすい歴史学という学問にあって“人間の今を知る手掛かり”と語ってくれた著者(私にとっては学生時代の恩師でもある)は単なる古文書のみならず古典文学からも“歴史としてのメッセージ”の読み取り方を丹念に教えていただいた。
 この9巻を中心とする中世編(7巻〜12巻)を一読した後に“中世史”に関するイメージが一変することは確かである。歴史を動かしてきたのは一握りの英雄だけではない。彼らを支えていたのは今の私達と同じく等身大の人間達であり、1人1人の物語がそこにはあったのだから。
 尚表紙カバーの武者は70年代の日本史教科書では従来“伝足利尊氏像”さとれていたが、これをいち早く“高師直”の可能性が強い、と指摘したのも著者であることを付け加えさせていただく。
40年前の刊行ながら今でも基本書となる名著 ★★★★★
中央公論新社の「日本の歴史」シリーズは、40年前に刊行されたものの改版であるが、日本通史の昭和のスタンダードと称されるだけあって好著が多い。個人的には古代〜中世の中では、第1、3、5、6、7、9巻を高く評価している。佐藤進一氏執筆の第9巻は、南北朝時代の研究水準を飛躍的に高めただけでなく、現在でも基本書として十分活用できる名著であると思う。このシリーズには改版にあたり刊行後の研究状況が解説として追加されている。紙数の都合上、すべてに詳細とはいかないが、この巻の森氏のものはバランスのとれた良いものであり、基本書としての価値を高めていると思う。(ただ、巻によってはひどい駄文解説のものもあり、せっかくの試みが失敗しているケースがあるのはこのシリーズにとって残念である)
崩れ行く古代秩序 ★★★★★
 本書は建武新政より説き起こして、足利義満の死に至るまで、つまり平安の世より連綿として受け継がれてきた秩序が、権力のみならず、義満の皇位簒奪の野望に及んで、ついに権威までも地に落ちる時代を扱っています。その既成秩序破壊の第一矢は他ならぬ後醍醐天皇によって放たれ、本人たちの主観としてはどうあるか判らないまでも、事実上それを受け継ぐ有名無名の新参者たちの活躍により、古代秩序の本丸たる天皇の権威すら崩されようとしていく、当に新時代への過渡期としての南北朝時代の意義を本書は余すところなく示しています。このシリーズ全般に言えることですが、本書もまた巨視的な歴史の動きを追うに止まらず、微視的なこの時代に生きた名も無い人々への関心が強く、それも資料が限られるせいか、先行諸巻でも記憶にあるような名前が散見され、裏通史のようになっていることは興味深いところです。
 私は、新しい秩序建設に向かってただ邁進するかのような戦国の世より、これからどうしようか、試行錯誤が始まったばかりのこの時代のほうが、歴史的な魅力に富んでいると思っています。古い人間と、新しい人間がのた打ち回りながら、その日その日を守ろうと必死に生きる様は、その時代に生きた人にとっては冗談ではないでしょうが、何万という大軍がぶつかり合って人の顔が見えない戦国時代より、少なくともおもしろい。著者はこの時代の意義を下からの要求が上を突き上げ、上からの圧力が下を押さえつけ、意思が相互に浸透し合う様になった事を挙げられていますが、そんな混沌の中にこそ、新しい息吹が含まれているものなのでしょう。これからの時代はなぜだか数人の英雄を除いて一般的な関心が薄いような気がしてなりません。平安中期と並ぶ日本史の「穴」ではないでしょうか。しかし本書はそんな「穴」にもしっかり人がいることを教えています。