摂関期の王朝の様子を詳細に描く高水準の名著
★★★★★
1965年に刊行されたものであるにもかかわらず、現在も同様の試みで肩をならべることのできたものないと思われる(倉本氏の解説による)とされる摂関期のさまざまな事象を総合的にかつ詳細に描いた名著。それは土田氏のこの時代の資料に対する造詣の深さに基づくのであろう。日本の歴史シリーズで現在でも名著とされ、参照されるものは、すべて資料への深い沈潜と広い視野をもった研究者のものである。最近の平安期の研究では保立道久氏による王権史の視点からの新研究があり注目されているが、土田氏の弟子である東大の大津透氏が、保立氏の研究について、講談社版の通史『道長と宮廷社会』の中で、話としてはおもしろいが、という趣旨の発言をされているように、土田氏や橋本氏のような研究と合わせて平安時代は研究されるべきであり、その意味で現在でも高水準といわれる本書が改版出版されたこと喜ばしい。なお、倉本氏の解説は、政治史についての出版後の研究成果の紹介はあるが、他の分野、例えば保立氏の王権史などについての言及はない。紙幅の関係でとことわっている割には、土田氏を持ち上げているのか、皮肉っているのかわからない無駄な記述の多くはやめて、主要な研究をしっかり紹介した解説を書いてもらいたいものである。ただし最後の遺言の紹介はよい(これは先の大津氏の著書の挟み込みの月報?の中でも紹介されていた)。その発言で重要なのは、1.現代人の心で古代のことを考えてはいけない 2.古代のことは、古代の人の心にかえって考えなくてはならない という点である。現在の歴史関係の著書の中には近代以降に生まれた思想の視点からのみ過去の事実を分析しているものが増えている。しかし古代の歴史を古代の歴史として描こうとするとき、土田氏の残された遺言の視点に基づいた歴史認識を忘れて行われるべきではないと考える。