真面目に、しかし強行突破で
★★★★★
皇帝たちが把握しきれないほど次々に入れ替わり死んでゆく混迷状態から抜け出していわゆる五賢帝の時代に入ったローマ帝国。
既に何百年もの長い歴史を誇るローマはヨーロッパから北アフリカから中東までを版図に加えた巨大な国家となっている。
単に領土が広いだけではなく、多民族国家であり文化習慣、宗教の違いまで内包している。そんな国家運営の舵をとることになったトライアヌス。
著者の活写するトライアヌスは、ひたすらまじめに働く実直な男であった。かといって真面目さゆえにおとなしいタイプではなく、
障害にぶつかれば正面きって突破していくのである。抑制の効いた猪突猛進とでも言おうか、ひたすら前へ進んでいくトライアヌスなのだった。
本書は「至高の皇帝」トライアヌスの勤勉な仕事ぶりをまとめてあり、見事な橋などの公共事業・インフラ整備、
子どもたちへの育英基金や(属州ではなく)本国への投資奨励の法制化など、彼のさまざまな政策をわかりやすく書いている。
トライアヌスが国家の防衛などの軍事的な面から、教育、属州統治、本国の活性化など国家運営にあたって
多くの面にくまなく気を配り、改善を図っていたことが伝わってくる。
しかし本巻の白眉は何と言ってもダキア戦役であろう。仏語、西語、伊語はもちろんルーマニア語がロマンス諸語に数えられるのも、
遡ればこの戦役に由来するのである。『ダキア戦記』が失われた現代、塩野氏は円柱の彫り物からダキア戦記を紡いでゆく。
いつもながらの、ローマへの愛に溢れた生き生きとした描写でトライアヌス像を示してゆく文庫24巻である。
猛烈に働いた「至高の皇帝」の治世
★★★★☆
ローマの同時代人たちも「黄金の世紀」と呼んだ紀元2世紀。この「賢帝の世紀」を塩野氏は「賢帝とは何だったのか、賢帝と賞賛された理由は何か」を中心軸に書いたと述べていますが、本書で登場するトライアヌスは、その叙述にはまさにうってつけの人物。ローマ帝国史上その領土を最大版図に拡げた功績や働きぶりを余すところなく描いています。
皇帝のなかの皇帝「至高の皇帝」の名前まで授けられたトライアヌスは、初の属州出身の皇帝。橋や港、道路といった数多くの公共事業にも力をいれ、パルティア遠征ではペルシャ湾まで到達するほど。塩野氏はその治世を(同時代の歴史家タキトゥスが書かずに資料が少ないなかで)丹念に書き出してくれてます。
塩野氏がトライアヌスの彫像に話しかける言葉「あなたはなぜ、ああもがんばったのですか」は、トライアヌスが20年の治世でいかに猛烈に働いたかを想い起こさせるにぴったりの表現だと思います。
賢帝トライアヌス
★★★★☆
トライアヌスの影には一切問題を起こさず、地味に生きた女達がいた。
祭りごとは男に任せて、女は社会の前線に出てこないでおいたほうが世の中うまく廻るのかもしれない、と改めて感じる。差別だといわれそうだが事実だ。
この巻で面白かったのは「人材登用」について。
「人材登用は勝負」として、なぜ縁故採用がそこまで多用されたのか・・・現在であったら許されないような堂々とした口利きによる人材登用。私などは庶民感覚を持っていたら政治なんて絶対に出来ないと思っているのでこの優秀な人間達による優秀な人間の人材登用はお気に入りだ。
読みやすくなって、ハイ!
★★★★★
この本の単行本が出版されたのが2000年9月、この年には「ローマ人の物語」シリーズが某イタリアに多大の某かを与えたとかいうことで、著者に"イタリア共和国功労勲章"が授けられている。 その前年1999年には司馬遼太郎賞がこれまた授けられている。 そのせいかどうか、知らんけんど、本書「賢帝の世紀」は、これまでとは文章が異なっている、格調高くなっている、読みやすくなっている、当初のようにブツブツ切れる句点・読点が少なくなり、日本語として、すらすらすんなり読めるようになった。 このシリーズ本が売れたおかげで、日本で講演等をしたり、前述のようないろんな賞を取ったりした事もあって、余り変な日本語は書けないワ、恥ずかしいワッ!という事かも知れぬ。 これで漸く、キチンとした日本語として、当シリーズを読めるようになった。 本の内容?それは読んでのお楽しみ、ということにしておこう。 新潮社のホームページに識者の感想が載っているが、これも面白い。 作者直々の「お詫び」の文章もあったりして、楽しめるったら楽しめる。♪♪
トライヤヌスの偉業
★★★★★
ローマ帝国が最大版図を誇り、最盛期を迎えたと言われる五賢帝時代。
中でも「至高の皇帝」と言われたトライヤヌスの治世にスポットをあてる。
トライヤヌスの統治能力の高さと、猛烈な仕事ぶりが余すところなく語られ、ぐいぐいと引き込まれる。
相当の力がないとこれだけの広さの帝国を統治できない、という職務の大変さにも驚き、
またそれをやり遂げたトライヤヌスの力量にも感嘆するしかない。
とにかく、凄い。
働いて働いて働いて働きまくっている。
とかくキリスト教側から、悪意を持って語られることの多かったローマ帝国と皇帝たち。
キリスト教のフィルターを通さない本書によって、
ローマ皇帝の真の偉大さが見えてくる。