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ローマ人の物語〈22〉危機と克服(中) (新潮文庫)

価格: ¥483
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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何もなかったことに ★★★★★
「暴君ネロ」の死後、次々と皇帝の擁立と死去が続いて、国家自体は大体無事ながらトップは大混乱のローマ。
この危機に乗じて、カエサルの征服後ずいぶんと平穏であったガリアが蜂起し、「ガリア帝国」樹立を試みる。
かつてカエサルが与えまくった「ユリウス」の家門名を持つ者ばかりが反乱を率いていたこともおもしろいが、
やはり興味深いのはCLEMENTIA即ち寛容をもって通したローマの事後処理のやり方である。
それと対照的にさえ思えるユダヤ相手の戦争も、結局は、ローマの覇権に対して反乱しない限りにおいて、
それぞれの民族の多様性、独自性を許容していくというローマのポリシーを貫いた結果であったことがわかる。
怨恨を残すことによって後々の統治に支障が出ることを防ぐ、なるべく「何もなかったことにする」ローマの姿勢は一読に値する。
後半は混乱を収拾する責務を負った皇帝ヴェスパシアヌスの統治が描かれる。名門元老院階級の出でない、
軍団たたきあげのヴェスパシアヌスの落ち着いた統治によって、ローマは再び平穏になっていくのだった。
しかし、彼が「皇帝法」の成立によって、元老院による皇帝弾劾の制度を取り上げてしまった点が気にかかる。
実質上は相当の権力を持ちながら、表面上はそうでもないように装いつつ継承されてきたローマ皇帝という地位は、
さらなるパワーを獲得したことになったと思う。ただし、皇帝不適格でも弾劾できないとなれば暗殺でもするしかないということにもなったろう。次作に続く。
「健全なる常識人」ヴェスパシアヌス ★★★★☆
ローマ市街戦にまで発展したネロ死後の皇帝の座をめぐる争い。事態を収拾したのはシリア属州総督だったヴェスパシアヌス。場当たり的にその地位についたネロ死後の皇帝らと違い、彼は忠実な同僚のムキアヌスや息子ティトゥスと周到に準備をすすめ、皇帝の座につきました。
この高貴な生まれでもなく前線勤務の軍人から出世したヴェスパシアヌスの資質を、塩野氏は「健全な常識人」と評し、その資質こそが混乱の極みにあったローマを安定させるのに必要であったと論じます。
その治世は「歴史家に言わせれば特筆すべき事件は何もなし」。まさに健全なる常識をもって、ユダヤ反乱の収拾、財政再建(これも歴史家に言わせれば、歴代皇帝のなかで最高の国税庁長官)などにあたりました。特に印象的なのは、かつてアウグストゥスがこだわった「血」に基づく皇帝継承を、わざわざ法を作ってまで次期皇帝決定システムを制度化したこと。
生真面目さがにじみ出る施策によってローマが危機を克服していく様子が描かれています。いつもながら塩野氏の筆による人間ヴェスパシアヌスへの描写に、思わず親しみが湧いてしまいました。
ローマ帝国の懐の深さ ★★★★★
この巻で感じるのは、ユダヤ人の特異性だ。なぜ彼らはこの時代に既にここまで頑なに他者との同化を拒んで選民思想の虜になりえたのか・・・著者なりの回答を寄せてはくれているがそれだけでは納得できない部分がたくさんある。そしてそれが現代にまで根深く残っているのだから恐ろしい。自分達で街を作らず必ず出来あがった街に入り込むくせにそこで独自のコミニティを作り上げる。ユダヤ人については更に勉強したくなった。
そして、皇帝ヴェスパシアヌスの堅実な采配ぶり。それを支えたムキアヌスの辣腕。自分よりも優秀なものを迷わず登用し続けられたか、が前の3皇帝とは違ったところか・・・
そして、混乱を極めたローマの現状に便乗しガリア帝国を画作した者達を「ローマの混迷ゆえの行動」として「なかったことにする」というスタンスを貫く恰好良さがこの時代にもある。
ローマの危機管理 ★★★★★
 ローマ帝国の「危機管理」の確かさが 実に読み応えがある。主導権を巡る内部闘争が 外部の反乱を招くというのは 現代の色々な「組織」でも良くある話だ。日経新聞を読んでいれば そんな記事は百出である。誠に 人間は2000年前と大して変っていない。

 そんな危機にどうやってローマ帝国が対応したのかが本書のテーマである。見事な危機管理振りには唸ってしまう。

 ここで塩野七生が追求しているのは その時点での登場人物たちの資質ではない。勿論 危機管理をやれた連中であり そもそもの個人の資質は高い。但し 塩野七生は そんな個人の資質に 危機管理の成功の原因を求めてはいない。むしろ カエサル以来のローマ帝国のスキーム自体に 成功の原因を求めている。そうして そのスキームを作ったカエサルを声を上げて賛美していると言って良い。そもそも この「ローマ人の物語」を書いている塩野七生の原点は「時空を超えたカエサルへの片思い」にあるというのが小生の 22巻まで読んできた実感である。

 それにしても昔のローマ人の危機管理は素晴らしい。時代を超えて 大変勉強になる。

「健全な常識」を持った皇帝の解決方法 ★★★★★
ローマ人たちにとって悪夢の紀元69年が過ぎていく中、希望への光明が胎動していた。ヴェスパシアヌスとその仲間たちである。歴史というのは、後世から振り返るものである。カエサルやアウグストゥスのような比類なき才能に恵まれなかったヴェスパシアヌスの帝政時代に広大なローマ帝国に平和と秩序が戻ってきた。その結果を踏まえて塩野七生はこのような叙述する。当時のローマにおいて帝政というシステムが破綻した訳ではなかった。有効に機能させるための「健全な常識」を持ったトップが必要であったのだ、と。69年時の皇帝たちとヴェスパシアヌスの鮮やかなコントラストを描きながら、「健全な常識」とは果たして何か、複数の具体例を元にして紐解いていく。