3人の皇帝
★★★★☆
「暴君ネロ」の死後、皇帝が入れ替わり立ち代り就任しややこしい『危機と克服』の巻。
『危機と克服』文庫最終巻となるこの本では、ティトゥス、ドミティアヌス、ネルヴァの3名の皇帝が登場する。
善政を敷き始め順調かに見えたティトゥスが不運にも若死にし、弟ドミティアヌスが引き継ぎ、老年のネルヴァもあえなく普通に死去。この巻でも皇帝は目まぐるしく入れ替わる。
本書のハイライトは有名なポンペイの大噴火。遺跡のお陰で今ではものすごく有名だが、当時は今思うほどの大事件ではなかったとしつつ、
当時の書簡を用いてリアルな描写がなされている。この災害や、またも起こったローマ大火などの処理に追われているうちに
亡くなったティトゥスは不運としか言いようがない。思いがけず早くに帝位にのぼってしまったドミティアヌスは、
とりわけ軍務経験の不足から来る失敗も重ねながら、帝国の防衛線を堅固にし、公共事業も熱心に行っていく。
死後「記録抹殺刑」に処されたというドミティアヌスだが、なぜそこまで嫌われたのかが、あまり伝わってこなかった。
帝国の人々よりも家族など身近な人に恨まれた感はあるものの、それは元老院による記録抹殺刑決議にはつながらない。
『危機と克服』最終章というわけで、年表と文献表が付されている。また、巻末にスペイン属州から上京した詩人マルティアリスの小話が盛り込まれ、これはおもしろい。
災害に倒れた皇帝、「記録抹殺刑」にあった皇帝
★★★★☆
ローマを再び安定化させ、天寿を全うしたヴェスパシアヌスの後、皇帝についたのは、父とともに国政を担ってきたティトゥス。ヴェスパシアヌスによって、ユダヤ反乱平定という「箔」までつけてもらい、早い時期から次期皇帝継承者として仕事を任されてきティトゥスは、塩野氏によれば「(この人ほど)良き皇帝であろうと努めた人もいな」いというほど、真面目に精力的に皇帝の仕事に没頭します。しかし、その治世におきたヴェスピオ火山噴火とポンペイの消失、そしてローマの大火という度重なる大惨事。心労からか、ティトゥスは就任後2年で病死。とりたてて欠点(失政)のなかった皇帝を皮肉好きのローマ人が評した言葉「治世が短ければ誰でも善き皇帝でいられる」には笑ってしまいました。
ティトゥスの次は、その弟ドミティアヌス。死後「記録抹殺刑」の処される皇帝であり、よほどの悪政を行ったのかと思いましたが、ドナウとラインの両河をつなぐ「ゲルマニア防壁」を築くなど、後世にも残る(刑によって名は残らないけど)事業や施設を実施。しかし、その治世も暗殺によって幕を閉じます。
ドミティアヌスの項はその治世の長さ(15年)の割りに、「記録抹殺刑」の影響で資料が少ないせいか、塩野氏の記述もどこか淡々としていて、印象が薄いように思います。
ところで、本編の最後の「ローマの人事」の部分は、人材(国家のリーダー)育成の視点から
ローマの強さを感じさせる内容で、短いながらも佳い文章でした。
厳格すぎた皇帝の末路
★★★★☆
不幸にも若死にしたティトゥスの後を受けたドミティアヌス。
正直そこまで悪い皇帝でなかったように感じるが、民意というのは移ろいやすい。
それにしても皇帝の急死や暗殺を経ても微動だにしないこのシステムは凄い。
楽しんでワクワクドキドキしながら読み進めていくような内容ではないので面白みに欠ける。この巻だけ極端にレビュー数が少ないのも頷ける。
付記の「ローマ詩人の生と死」が面白い。
皇帝ドミティアヌスはなぜ「悪帝」のレッテルを貼られたのか
★★★★★
ローマに平和と秩序をもたらしたヴェスパシアヌスの後を継いで、ふたりの息子たちが皇位に就く。長男のティトゥスは早すぎる死によって2年間で統治を終えなければならなかった。これから皇帝修行を始めようとしていた若き弟ドミティアヌスが急遽登板することになる。彼の能力は経験が乏しい故未知数である。ネロの二の舞になるのであろうか。否、そうはならなかった。いわゆる五賢帝時代へ着実にたすきを渡すのである。その彼が暗殺されてしまう。元老院、市民、軍人たちが反旗を翻したわけではない。その真相とは? またローマ帝国きっての歴史家と評されるタキトゥスにドミティアヌスはこき下ろされる。後世の歴史家たちの意見も順ずるようだ。しかし作家・塩野七生は反対論を展開していく。彼女の考えとはいったい・・・。