ウィトゲンシュタイン/ヴィトゲンシュタイン
★★★★☆
ヴィトゲンシュタインはオーストリア人、それゆえ彼の原書は全てドイツ語…ではない。
この青色本と茶色本は、ケンブリッジ時代の講義が元になっている。だから原典は英語ということになる。つまりこれは「ウィ」トゲンシュタインの著作だ。
奇跡の哲学者・ヴィトゲンシュタインの思想にじかに触れてみたい。でもドイツ語はちょっと…という人で、いや英語ならなんとか…という人にはオススメである。
ところで、ヴィトゲンシュタインはほぼ一貫して、哲学における諸問題というのは言語の誤った使用にもとづいている、と考えていた。
たとえば、我々はよく「タイムトラベルは可能か?」といった議論をする。
だが、「過去に行く」、「未来に行く」というときの「行く」という言葉は、ある場所から別の場所へと空間を移動する際に用いられるべきである。この空間に、時間というものを比喩的になぞらえることで、「時間移動」という表現が生まれる。
それはあくまでも比喩としてのみ意味がある。だからその比喩をもとに「過去に行くためにはどうすれば良いのか?」と議論をしても無意味である。というのも、ほんらい時間は「経つ」ものであって、「行き来する」ようなものでなないからだ。
だから、「タイムトラベルは可能か?」と問う以前に、我々が問うべきなのは「タイムトラベルという言葉にはちゃんとした意味があるのか?」だということになる。
それは、ある意味「四角い三角形はどのように作図可能か?」と問うのと似ているだろう。難しい問題であるように見えて、実は問題そのものが意味をなしていないのである。
おおむねこのようにして、ヴィトゲンシュタインは全ての哲学的問題が「解決」可能である、つまり「もともとそんなものは問題になりえない」のだと考えていた。
この『青色本』・『茶色本』も、そのような方法による問題解決(解消)の軌跡である。
哲学者は数あれど、こんな発想をする哲学者はなかなかいない。まさしく希有の天才だろう。