現代中国の国境紛争史 (山崎雅弘 戦史ノート)
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東西冷戦が終わる直前に中国(中華人民共和国)で始まった、経済面での改革開放政策は、二一世紀に入ると同国の爆発的とも言える経済発展の原動力となり、2011年には遂に日本を抜いて、GDPで世界第二位という地位にまで躍進することとなった。
また、軍事面でも、かつては同じ共産主義国の「先輩格」であったソ連製兵器のライセンス版や改良版が装備兵器の主流だったが、現在では独自技術に基づく新兵器の研究開発も盛んで、ステルス戦闘機「殲20」の開発も着々と進んでいると言われている。
だが、そうした華々しい躍進を遂げた中国にも、かつては四面楚歌に近い孤立状態へと追い込まれ、北の大国・ソ連や南の有力国・インドと対峙する国境の安全確保に神経を尖らせるという、相対的に弱い立場に立たされていた時期があった。1950年代から60年代にかけての、いわゆる「中ソ対立」の期間がそれである。
本書は、この「中ソ対立」の時期に中国の国境で発生した、中印および中ソの武力紛争とその政治的・軍事的背景に光を当て、当時の中国が置かれていた戦略的状況と、現代の中国が抱える内政上の問題との関係について、わかりやすく解説しています。2011年3月、学研パブリッシングの雑誌『歴史群像』第106号(2011年4月号)の記事として、B5判13ページで発表されました。
中国とインドの国境紛争は、現在もなお国際社会で熱い視線が注がれる「チベット問題」とも密接に関連しており、中印国境紛争の起源に目を向けることは、現代史の文脈におけるチベットの位置づけを深く理解する助けとなるかと思います。
また、中国政府は1960年代に中ソ間で発生した国境紛争を、文化大革命後の経済的混乱によって揺らぎ始めていた毛沢東と林彪の政治的威信を回復するための宣伝材料として、最大限に活用しました。今後も、このような「政治的思惑に基づく国境紛争」や「国民の不満を脇へ逸らすためのガス抜きとしての国境紛争」が発生する可能性は否定できず、中国政府の内在的論理や、同国の政治を支配する思考パターンを理解する一助になれば幸いです。