冬戦争(ソフィン戦争) (山崎雅弘 戦史ノート 29)
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1939年11月30日から、計105日間にわたって繰り広げられたソ連=フィンランド戦争(冬戦争またはソフィン戦争)は、巨大な軍隊を持つ大国ソ連が、あたかも旧約聖書に登場するダビデとゴリアテのごとく、北欧の小国フィンランドに苦しめられた戦いだった。
第二次大戦の本格化を目前に控えたこの時期に、ソ連が隣国フィンランドを攻撃した背景には、近い将来に予想されるドイツとの開戦に際して、北部の重要都市レニングラードとムルマンスク鉄道の安全を確保しておきたいという思惑が存在していた。そして、ソ連側が提示した、彼らの目から見れば「控えめな」領土交換要求がフィンランド政府に拒否されると、ソ連の独裁者スターリンはただちに軍事力の行使を命令し、陸軍力では当時世界最大規模を誇ったソ連赤軍が国境を越えてフィンランド領内へと侵入した。
だが、兵力面で圧倒的な優位に立つはずのソ連軍は、侵攻開始から数日のうちに前進の足を止めることを強いられ、森と雪に覆われた酷寒の戦場を幽霊(ゴースト)のように徘徊するフィンランド軍小部隊のゲリラ戦術に翻弄された挙げ句、膨大な人員と兵器を失って防勢に転じることを余儀なくされてしまう。最終的には、ソ連側が有利な条件で講和が成立したとはいえ、国際社会での面目が丸つぶれとなったスターリンと赤軍首脳部にとっては、決して内容を誇示できるような戦勝ではなかったのである。
当時ヨーロッパに駐在していた各国武官の誰もがソ連軍の圧勝を予想したこの戦争において、ソ連赤軍はなぜ苦戦を強いられたのか。充分な兵器と弾薬を持たないフィンランド軍は、いかなる戦術を駆使して巨大な赤軍の戦車部隊に立ち向かったのか。そして、この戦争の推移は、第二次世界大戦の行方にどのような影響をもたらしたのだろうか。
本書は、第二次世界大戦の序盤に、北欧のフィンランドを舞台に繰り広げられた「冬戦争」の開戦経緯と戦況の推移、そしてこの戦争が大戦全体に及ぼした影響を、コンパクトにまとめた記事です。2010年3月、学研パブリッシングの雑誌『歴史群像』第74号(2005年12月号)の記事として、B5判13ページで発表されました。圧倒的な国力と軍事力を持つ隣国ソ連の理不尽な侵攻に対し、人口面でも経済面でも軍事力の面でも「小国」と言えるフィンランドがどう立ち向かったのか、その歴史を知る一助となれば幸いです。