何げない日常、人との接触を描いて味がある
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「莫種樹(キヲウウルナカレ)」という言葉がある。庭に樹木を植えるもんじゃない。気になって仕事に差し支える。しかし、どうしても木を植えずにはいられない、という反語になっているらしい。この作家の庭は樹木が鬱蒼と繁っていて、ほとんど日が当たらない。何度も庭を掃く。きれい好きなのである。自己流の武蔵野の感じを残すように改造してしまった。かつて家を建てた時、金がなくて関保寿先生がトラックを仕立て山の雑木を採取してくれたこと等、淡々と、肩の凝らない随筆である。もう一話、紹介すると、「井伏鱒二先生に叱られた話」は全集月報のゲラに「先生は健啖家である」ことを書いたのを嫌がっているのを知り、書き直すとひどく喜ばれたという話である。叱られたというよりは、その後の先生の心遣いの優しさが描かれていて微笑ましくなる(雅)