廻る官兵衛
★★★★★
織田贔屓の播州人という、特殊な状況に自ら飛び込んだ官兵衛を運命が弄ぶ様が、上月城攻防戦を巡って描かれていきます。
この人は智者で儒教的倫理観の持ち主(おまけに切支丹)ですが、心情としてはかなり保守的な人で、天下思想なんて持たなければ、田舎大名の一番家老には惜しい忠実な器量人として、幸せな人生を歩んだかもしれない(その代わり、主家は滅んだかもしれない)のに、「次の天下は織田」と思い込んだばかりに主家では厄介者扱いされ、織田からは田舎の便利者として正当な評価をされず、使い捨てにされようとします。
御着へ、安土へ、長浜へ、岡山へ、花隈へ、使いへ合戦へと姫路に帰る暇がないほど縦横無尽に働いている割には圧倒的に不遇な官兵衛ですが、僅かに救いなのは、平穏無事な二十代よりもずっと充実して見えることと、「似た者」竹中半兵衛との出会いでしょうか。
しかし、上月城と山中鹿之介という、「姫路に官兵衛あり」と歴史の表舞台で名を轟かせた頃に、未だ秀吉の正式な家臣でなかったとは、驚きでした。あれだけ働いていても、秀吉の為であるなら、本当の主の小寺藤兵衛(織田家に良い感情を持っている訳ではない)が喜ばなくても無理はないという、極く普通のことに、
「織田家に着くのが主家の為=織田家の為に働くのが主家の為=秀吉に尽くすのが主家の為」
という(官兵衛)方程式で動いている官兵衛には理解出来なかったようです。
戦国播州のど真ん中で旋風を巻き起こす官兵衛は、肝心の藤兵衛に疎まれることになるという意味で、実は世間的な目で見るよりずっと空回りしていて、でも何故かそれがすごくいとおしいような、そんな第二巻でした。
混沌の播磨
★★★★☆
有力な大名が比較的広いエリアを統治していた地方に比べ、播磨地区は小さい氏族が群雄割拠しておりなかなか一筋縄にはいかない。
また、古い意識も根強く残っており、織田信長のような「構造改革」派にはついてゆけず、人情に厚い毛利になびきがちである。
そうした中での「織田派」黒田官兵衛と豊臣秀吉が播磨で苦戦する様が描かれる。
ここで司馬遼太郎は一方的に織田信長や豊臣秀吉を正義の味方のようには描かない。織田信長の非情でサディスティックな人間性や、豊臣秀吉が有能な家臣に抱く嫉妬心など、人間的な部分もえこひいきなく淡々と描いている。
そしてあいかわらずのドキュメンタリーと小説の混合が楽しい。
突然、司馬遼太郎本人の祖先が播磨の城に立て篭もったという話や、その地域の紀行日記が小説の中に突然出てくるのである。
歴史小説というジャンルがもともとドキュメンタリー的な要素を必然的に内包してしまうところはあると思うのだが、何のためらいもなく異世界が挿入されるところはSF的ともいえるくらいである。
官兵衛の視点から見た織田家が面白い
★★★★☆
1巻ではまだ織田家に近づいただけの官兵衛だったが、第2巻では織田家に入り秀吉の播州、中国攻めに貢献している。
もっとも、「織田家に入った」と言っても、まだ主家は小寺家なので現在の会社組織に置き換えると「社外取締役」といったところだろう。
秀吉などと違いを一歩引いた目線から見ているので、少し違った織田家を見ることができる。
面白かったのは、「織田家の弱点」。
一般によく知られている織田家は敵なしの「天下無双」というイメージが強いだろう。
しかし、それは「信長に対する畏怖」があるからで、信長がいないところでは諸将同士では逆に弱いというのが面白かった。
ただそれだけではない。
どんなに織田家があの時代先進的だったか、秀吉がすごい人物だったのかということも知ることができる。それから竹中半兵衛の話も興味深かった。
第2巻は、荒木村重の謀反があって終了している。
これを秀吉がどう切り抜けたのか、それに官兵衛はどうかかわったのか、3巻も楽しみだ。
やっと面白くなってきた
★★★★☆
退屈な第1巻から比べると、やっと面白くなってきた印象です。
その理由は、官兵衛の活動する世界が大きくなったこと(天下の動きに近づいたこと)によるものだと思います。具体的には、秀吉との濃厚な関係、信長との微妙な距離感、具体的な戦略などが描かれることによって官兵衛のひととなりや活躍ぶりが親近感をもって読むことができます。
ただ、官兵衛の人となりよりもむしろ戦国時代後期の織田信長をめぐる諸国諸武将の思惑や様子が詳細に描かれている点のほうが読み応えがある印象です。
司馬作品にはめずらしく、主人公に感情移入しにくい作品といえるような気がします。
一歩すすんだ
★★★★☆
数冊同時進行で読書しておりますので、とき
どき内容が離散集合してしまうという、精神
上良くない状態です。本作で如水は、信長に
出会い、秀吉の中国攻めの参謀となりますが、
先日山中鹿之介を読んだばかりで、把握しや
すかったな。ただ、作家の視点の違い、立場
の違いで、受ける印象がずいぶんと違うとい
うことにも驚きを禁じえない。
この中国での秀吉や如水は、前後に類を見
ないほどの忙しさだったらしい。その緊張感
を読み取れれば、この一冊むだなく読破した
ことになりそうです。