内容は前作とほぼ同じ。販売不振で製造中止になる寸前に一部の人が取り上げたことをきっかけに爆発的に売れた靴や、地下鉄のクリーンアップをきっかけに急激に下がったニューヨークの犯罪率といった事例から、「小さな変化」が「大きな変化」につながることをまず立証。さらに「少数者の法則」「粘りの要素」「背景の力」の3つの法則から、口コミ感染のメカニズムを解き明かしている。
前作と違うのは、ビジネスパーソンや経営者に向けに読みやすくまとめられている点。思想書の趣もあったパラグラフのタイトル表現がビジネス書風に改められ、各章の最初に要点を示したガイド文も付された。ノウハウに徹した書き方ではないが、新製品の発売に臨むなら、誰をターゲットにどんなメッセージを送ればいいかといったポイントを3つの法則から読み取ることができる。集団の人数に触れた「集団の臨界点」の論考からは、組織活性化につながるヒントが得られるだろう。
訳者は新装版に寄せて、「私たちはもう一度単純なことから考え直してみるべきではないだろうか」と不景気への処方箋を語る。「小さな工夫」からすべてが始まると主張する本書に、今を乗り越えられる一手があるというメッセージである。(棚上 勉)