真実委員会というものを知るには必須の良書
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著者のプリシラ・B・ヘイナーは、南アフリカ、シエラレオネ、東ティモール、ペルー、リベリアの真実委員会のケースに関わっていて、現在は政策立案シンクタンク、国際移行期正義研究所の国際政策立案室長を務めている(訳者あとがきから抜粋)。
以上の経歴から来る豊富な実務経験と専門的な知識により、真実委員会に関する教科書とも言ってもいいような本になっている。内容はあくまで網羅的かつ分析的であり、広い視野から見た問題から実際の経験から来る細部の問題まで、取り扱う事例は幅広い。前者は例えば、ボスニアにおける真実委員会と国際刑事裁判所との関係であったり、後者においては、委員会運営上における高度なデータベース環境の構築にかかるメリットとそのコストに関して、といった具合だ。
真実委員会という活動そのものに関する考察と平行して、世界各地の真実委員会に関して、短いながらも要を得た分析を行っているのもまた、真実委員会というものの理解の助けとなる。さらには、それら様々な委員会の主たる活動目的やその権限、予算、活動期間や調査内容、さらには「調査から除外された深刻な犯罪行為」などが一覧としてリスト化されていて、それぞれの委員会の比較検討に役立つ。これらの一覧表を削ることなく出版した点は、大いに評価したい。
この本はまた、真実委員会のみの研究としてではなく、紛争地域における、抑圧体制から民主体制への「移行期の政治」に関する事例研究としても様々な示唆を与えてくれる。真実委員会が直面する問題とは、そのかなりの部分が、政治的不安定とそれをとりまく国際社会の産物でもあるからだ。
今後、真実委員会とそれに関する様々な議論や研究が出現することになるだろう。そういったものの中で、この本はおそらくかなりの程度参照されることになると思われる。この本はそれほどの労作であり、また完成度が高い良書である。