「権威」と「権力」
★★★★★
著者に定評のある評伝が多いので以前から一度読みたいと思ってた本。
著者が作品のなかで自分は元号廃止・天皇制反対論者だと言っていたので明治天皇に批判的な結末を用意しているのではと心配したが、できるだけ個人的思想を無視している中立的な内容だったので安心した。
明治維新の旗印であったにも関わらず、現代ではその素顔があまり大々的に語られることの少ない明治「大帝」だが、彼自身が歴史的権威をもつ皇室を近代 天皇「制」へと導いた立役者の一人であった。
幼少期から晩年まで様々な人間的エピソードや明治憲法は発布当時から「天皇機関説」を想定されていたものだったなどの内容は最後まで読んでいてあきるものではなかった。
権威としての「天子」、権力としての「皇帝」。この二つを一人の人間に統合しえたことが「大帝」と呼ばれる所以であり、そのことが彼に続く大正帝、昭和帝ら自身の「天皇像」を拘束していたのかもしれない。
「大帝」とあるからといって決して保守派・復古派の人が書いたわけではないです
★★★★☆
講談社学術文庫版との違いは、巻末に解説があるかないかの違い。ちくま学芸文庫のほうには、赤坂憲雄氏による解説が掲載されている。赤坂氏は「明治天皇とその時代を、全体的に語ろうとする志向に貫かれた著書」として高く評価している。
優れた評伝
★★★★★
この本は数ある明治天皇の伝記の中でもトップに置かれるべき名著である.まず構成が面白い: 1912(明治45)年7月の天皇.息詰まるばかりの天皇崩御までの記録.次の章が1852年の天皇誕生から即位まで.そして最後の章が乃木夫妻の殉死によせて書かれた人間明治のスケッチ.文章に著者独特の迫力があって,かつ史料の吟味が徹底しているので気持がいい.著者によれば佐佐木高行日記にはまだ未公開の部分があるので,日清戦争以後の天皇の言動については詳しくは書けないらしいのだ.第2章には当然孝明天皇の詳しい記事があるが,これを熊倉功夫: 後水尾天皇(絶版だが, Amazonで入手可能) と比べると,幕末の天皇の哀れさがよく判って,気の毒になる.なお,著者は亡くなってしまったが,史料事情にその後の変化はないので,本は現役である.