“死”と異文化
★★☆☆☆
日本出身の小説家,吉本ばななによる、南米(主にアルゼンチン)への旅を題材にした短編集。
題名から想像されるようなドロドロした色合いの作品ではなく、どことなくぼんやりした雰囲気がある。
異文化との出逢いや、偶発的な“死”との接触が一つのテーマになっており、“死”に鷹揚な南米の文化と、“死”を重く受け止める日本人の感覚を対比的に描いている点が興味深い。
感じたことを感じたままに綴ったような文体は端整ではないが、流れに乗れば、割とすらすら読める。
ただし繰り返し読むとなると、作者の世界観に強いシンパシーがないとしんどい部分はあるが。
懐かしい”風”
★★★★★
今や懐かしいあの”はしだのりひことシューベルツ”の昭和ニッポンの名曲、教科書にも載った”風”の歌詞の一節を、年の離れた夫と私が二人同じように思い出してしまうシーンが出てくる。メンドーサのプラタナスの並木道で・・・・・。
7つの短編がすべて一人称形式で書かれているが、その「私」がすべて違った「私」であるのに若干の違和感を感じてしまうが、そこは文章のうまいばななのこと、個々の独立した小説に巧く仕上げている。
もっとも一人の「私」がそんなにしょっちゅう不倫をしていられないわな。
この本、原マスミのけばけばしい装画と山口昌弘の写真が、きわめて南米的、きわめてブエノスアイレス的で、ばななの文章をより引き立てている。
静かな慟哭
★★★☆☆
吉本ばなな、一時の異常なブームは去ったが、相変わらず精力的に作品を発表している。その異常ブームが落ち着いた後の作品も相変わらず、自然体でほっとする文体は健在。そして心の中の悲しみを呼び起こし、静かに慟哭しそのあと気分がすっきりする、そのマジックは変わらない。
この小説の装丁とイラストも高く評価したい。
彼女はどんどん小説家としてうまくなっている。ここに収録されている作品もよくまとまっている。しかし読後感が浅い。あまり心にとどまらない。
彼女の今後以前のようにしっとりとした読後感と余韻を残すものを期待したい。
フィクション丸出し
★★☆☆☆
登場人物の思考や気持ちを無理矢理作り出しているようでリアリティーが感じられない。そもそもアルゼンチンと不倫を無理矢理くっつける必要があるのか。南米を舞台にしても、退屈な日本人の不倫話はやはり退屈だ。しかし、写真はすごくきれいである。観光ガイド本的な考えで書いたのなら成功だと思う。
南米に、いきたい
★★★★★
ただ、南米にいきたくなった。
題名が少し気になったけど、南米が日本から見てちょうど地球の反対側にあると思えば、すごく納得できた。