澁澤氏の嗜好・思索が優しく書かれた楽しいエッセイ
★★★★☆
澁澤氏が愛好する自動人形、玩具、動植物、建造物等について博物誌風エッセイとして綴ったもの。該博な知識に驚かされる点は常の如くだが、本書は特に無益・無用なもの、歴史に埋もれてしまった人物等を好んで採り上げている点が特徴である。
やはり、表題作「太陽王と月の王」の印象が一番強いが、ルイ十四世(太陽)ではなく、ノイシュヴァンシュタイン城を建城した無為のルドヴィヒ二世(月)に焦点を当てている点が"らしい"所。現在、ドイツ観光ポスターの目玉となっている同城にワグナーの主旋律が流れているとは驚きで、本編自身が"白鳥の歌"のように優美である。ダ・ヴィンチを貶めている訳ではない、と再三強調しながら、ダ・ヴィンチが参考にした(かもしれない)無名の三人の技術者を紹介している辺り可笑しいと共に、我々の硬直した歴史・人物観を心地良く覆してくれる。空中を浮遊する植物を「植物界のイカロス」と称して愛するとは詩的。「北斎漫画」と幻灯機をイメージ玩具として捉えているのも印象的。鏡花「夜叉ヶ池」でも著者の関心は「神に似て階級低い、庶物の精霊」にある。人工授精を「哺乳類が魚の真似をしただけ」と言い切る慧眼には唸らされる。「パイプ」の話は無益の極だが、やたら可笑しい。「神話と絵画」は昼と夜(=神話=深層心理)の二元論をベースに印象派と象徴派を論じた鋭い考察。「嘘の真実」には著者の文章作法が率直に書かれており大変興味深い。「空前絶後のこわい映画」に出てくる「東海道四谷怪談」は私も小学生の時に観たが、怖くて座席を後ろに移動した事を思い出す。自著「記憶の遠近法」の解説もある。続けて、ニーチェの「蛙の遠近法」に触れる辺り巧妙。「すべからく」は耳が痛い。
啓発的な話題が盛り沢山だが、自由奔放な思索に身を任せているだけで至福な時間を過せる。巻末にサドとの架空対談も載っており、最後まで楽しめるエッセイとなっている。
こんな人もういない
★★★★★
好きです澁澤龍彦。愛してます。このエッセー集も彼の趣味と価値観が詰まっております。昔の東大の仏文の方々凄いですね、小林秀雄、福永武彦…。三島が死んだ時も正しい意見言ってたの澁澤さんだけでした。当時中学の私にもわかりました。彼が死んでタバコも吸えない最低な世の中になりました。人生に目的なし!法律クソくらえ!素晴らしい!そのとおり!これからも澁澤龍彦マークで野たれ死ぬまで生きていきます。
サド復活?
★★★★★
お城に宇宙に、お化け、パイプと
おもちゃ箱をひっくり返したような
多岐にわたるテーマ。
そんな中でも、もっとも面白かったのが、
「架空対談*サド」
マルキ・ド・サドと渋澤氏の対談です。
サドに対する渋澤の感情、本音(?)が垣間見え、
クスリと笑わせてくれます。
この対談だけでも、この本を読む価値はあると思います。