ゲージ対称性
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この本のテーマは大きすぎると感じ、あまり期待してなかったが、最後の11、12章でゲージ対称性(不変性)によるQED、QCDの一貫した解説により一気に満足度がアップした。
この本では波動関数の位相を測定する仮想の検知器が導入されている。これは文字盤(ゲージ)と指針からなり、空間のある場所に設置されると電子の位相を検知する。
電子が普通に動いていると指針は単位時間に3,6,9,12と規則正しく回転する。ところが、他の電子に接近して方向を変えるとき(加速するとき)指針は3,6,9,1と回転が不規則になる(ゲージ変換)。ここでゲージ場が「文字盤」を時計周りに1目盛分回転させ(ゲージ粒子を放出し)最後の指針1を12に修正する。
位相にはエネルギー・運動量が符号化されているので、この新しい粒子を放出することによって他の電子と出会う前と後でエネルギー・運動量が保存されるという訳である。
力を担うゲージ粒子という言葉の意味がはじめて分かったような気がした。
対称性としてみたエネルギー保存則
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「系に対称性がある場合それに対応した保存則がある」という解析力学におけるネーターの定理を軸として、エネルギー、地動説、ニュートンの万有引力、慣性、相対性理論など科学にまつわる重要で有名な物語を描いている。
著者の1人、レーダーマンとは素粒子物理学でノーベル賞受賞者である。2008年日本人3人が受賞した主題「CP対称性の破れ」に関する記述もある。大学生初年以下の理系の学生だけでなく文系のヒトにも読んでいただきたい一冊。
同じ運動量の量子状態を占めることができるボースアインシュタイン凝集という現象など、常識では理解できないことが量子力学では成立しうる。ボルンが提案したように量子の位置は確率でしか計算できない。波動方程式にはなんと想像上の数iを含む、すなわち量子波は複素数である。ディラックによれば、真空そのものはマイナスのエネルギーを持つ電子に満たされている。さらには、時間に逆行する!粒子なんてものも実際仮定され考えられた。
そんな奇抜ともいえるアイデアが量子の世界では成立する可能性を秘めている。量子力学は奥が深いんだなあ。
対称性から捉える世界の姿
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物質(原子)の生成から初め、ガリレオ、ニュートンらに見る巨視的な物理学と進み、相対性理論で時間とエネルギーの関係、時空の対称性を述べた後、量子力学からクォーク理論へと話は最新の物理理論まで流れるように話が進められる。
タイトルになっている「対称性」が本書の大きなテーマであり、筆者の論点の中に貫かれているのだが、初めのうちはあまり主題が見えてこないかもしれない。むしろ、後半の量子力学や素粒子論に入ってからが物理学における対称性の美しさ(或いは理論としての堅牢性)を感じることができる。次々と発見・予想される素粒子の振る舞いを正確に捉えるためには、エネルギー保存という対称性に加え、群論などの数学的な意味での対称性の概念が極めて強力な威力を発揮する。いついかなる時空においても(しかしながら鏡面世界を引き合いに出したパリティ非保存の話もちゃんと出てくる)、物理法則は不変であり、だからこそ実験だけでは到達し得ない世界を予測することが可能である、とする筆者の議論は当たり前のようであるが、それだけに意義深いものであることを再認識させられる。
後半は最新の素粒子論、そして超ひも理論を絡めた統一理論の話へと展開していく。しかしかなり専門的な事項を絡めて書かれるので、前知識がないと少し退屈に感じてしまうかもしれない。ただ、付録の群論に基づく対象性の数学の解説は非常にわかりやすいので、ここだけでも読む価値がある。