最後まで土方歳三は新選組副長だった
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京都での栄光と鳥羽・伏見での敗戦から傷だらけの撤退。
「池田屋事件」の頃では最高潮だった新選組も多くは戦で絶命し
生き残って江戸へ戻っても散り散りになっていく。
第23話「江戸の月」ではとうとう近藤と土方だけになり月を見上げては昔の
出稽古に出かけた時を思い出す。
第24話「風去りぬ」では天才剣士と言われた沖田総司の最期を描いている。
残り僅かな命の灯を見届けるかのように療養先に現れる土方歳三。「生まれ変わったら
お前のような人間になりたい」という土方に、「生まれ変わっても土方さんのような人
に会いたい」という沖田。土方を見送りそっと障子を閉める姿に胸を打たれる。
第25話「流山」では盟友との永遠の別れ。投降した近藤勇の名を呼び続ける土方の悲しい
声が無情にこだまする。
第26話「燃える命」
死に場所を求め転戦して最果ての蝦夷地、箱館にたどり着く土方。彼には明日はもちろん
昨日も無い。あるのは「今」だけ。思い浮かぶのは京都での日々。
「悔いは無い」と弾丸の中へ飛び出してゆく。箱館奉行の官僚の中でたった一人だけ戦死
した土方。最後のテロップまで見逃せない貴重な作品。このDVDは涙無しでは見られない。
有難う! 『新選組血風録』
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現在、新選組を単なる悪の人斬り集団として描く小説やドラマはもうみられない。土方歳三を、陰険陰湿な影の黒幕、極悪非道の悪人として描くものもない。しかし司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』以前は、確かに彼らは、薩長の勤皇の志士によって倒されるべき大悪人であった。
薩摩・長州による明治・大正・昭和の政府は、はるかな宋に端を発する尊皇攘夷論による水戸史学によって、体制を維持させていた。天皇制を利用した、ともいえる。そのために教育のみならず芝居や映画といった娯楽の分野も、日本人の歴史観を固定化させるのに役立ったといえるであろう。
ドラマ『新選組血風録』は原作と共に、こうした日本人の価値観に大きな転換を促したという意味で、歴史的である。この原作とドラマまで、土方歳三が函館戦争に参加していたことすら、一般には知られてはいなかった。まさに記念碑的作品である。
「第24話 風去りぬ」は、名作中の名作である。沖田と隊士たちとの別れ、そして沖田の死を渡辺岳夫の名曲をバックに叙情的に描く。彼らはすでに、互いの短い命を悟っている。若い命の慟哭。しかし彼らは一滴の涙も見せない。お互いを思いやるように、笑顔さえ見せて別れていく。別れと死を描いた第一級の秀作である。
「第25話 流山」。近藤を呼ぶ土方の絶叫が、いつまでも耳に残る。近藤と土方。何故、彼らは別れねばならなかったのか。二人の男は何に、その生き方の美しさを見出したのか。観た者は、いつまでもいつまでも、二人の生き方を問い続けることになる。それはまた、自らの生や死を問うことに重なる。
土方歳三の「俺の一生に悔いはない」という凄絶な生き方を、司馬遼太郎は「幸福な一生」とみていた。賊軍と罵られ、朝敵と憎まれる、土方のそんな生き辛さも不器用さも、だからこそ、私たちは感動をもって受け入れることができるのだ。有難う、「血風録」。有難う、土方歳三。
司馬史観を見事に映像化した不朽の名作
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司馬遼太郎氏がドラマ原作となる新選組血風録を発表したのは1962年。それまでの新選組のイメージとは幕末史観、あらゆる小説、映画に至るまで残虐非道の人斬り嗜好集団の汚名が常に付き纏い、中でも近藤勇、沖田総司は美化されても土方歳三は絶体巨悪の元凶とされてきたのだ。そんな土方に違う視点からスポットをあてその英雄的魅力を世に知らしめたのが司馬氏の血風録と後の燃えよ剣であった。新選組を史上稀有な近代的機能組織と位置付け、その組織を創造し、形成し、堅守し、崩壊してゆく旧政権の威信を京洛の地で天下に示しやがて旧時代と節義に殉じた土方と新選組隊士達を司馬氏特有の史観で鮮明に描かれた傑作だ。その血風録を1965年に映像化したのが本作で、当時全くの無名に近かった栗塚旭を土方役に起用し、近藤に船橋元、沖田には当時劇団の研修生に過ぎなかった島田順司、斉藤一に左右田一平など個性豊かな面々がまるで新選組を現代に復活させたが如く見事に演じている。脚本は結束信二で司馬史観をうまく咀嚼し、彼自身の創作技法を加え融合、深みのある脚本を生んだ。全26話中、大半を監督したのは河野寿一。秀逸な脚本を独特な演出力でリアルかつ繊細な映像世界に昇華させた。渡辺岳夫の美しい音楽も効果的にドラマを盛り上げている。司馬氏の小説を原作にこれまで数多くの映画、ドラマが作られてきたが、正直名作と呼ぶのに値する作品は極めて少ない。この約40年も昔に作られたテレビ映画、新選組血風録は司馬史観を当時天才的な人々が一丸となっていい物を作って表現したいと云う情熱の結晶がすなわち、現在も尚、世代を超えて新選組映像史上、最高傑作かつ不朽の名作、新選組血風録となったのだ。
落日
★★★★★
大阪から江戸に逃げ帰った新選組は「甲陽鎮撫隊」を組織し甲州へ向かうが官軍に敗れる。そして千駄ヶ谷の植木屋の離れで養生する沖田総司も、京都と同じ風が吹き、その風が吹き止むと共にこの世を去った。土方は流山で近藤と別れ、去っていく近藤に土方の「こんどう~~」と言う声がこだまする。そして土方は函館の五稜郭へ。。。
もう論評することは何もない。幕末を生きた人間の生き方がここに表現されている。