戦後間もない昭和20年代。海外の探偵小説、怪談作品を興の赴くまま、あれこれと読んでいった乱歩翁。
その作品のどの辺が面白かったのか。この種の探偵小説(今で言うところのミステリー小説)のジャンルとしての味わいは、どの辺にあるのか。この作品とあの作品を比べてみると、探偵小説としてどちらがより魅力的だろうか。
といったことを書かずにはいられない、そんな気持ちで熱を込めて書き綴っていく乱歩翁。幻影城の主の、探偵小説への愛着と熱意が、行間からひたひたと伝わってきます。
ただし、取り上げた探偵小説の話の筋、トリックの妙味などをかなり詳しく語っているところがあるので、クラシックな海外ミステリー、特に本格作品をまっさらな気持ちで読んでいこうと考えている方には、不向きの評論集かもしれませんね。
でも、私にとって本書は、小泉喜美子さんの『メイン・ディッシュはミステリー』(新潮文庫 ※絶版。なんでなんだあ!)とともに、最もシンパシーを感じる海外ミステリーの評論・エッセイ集です。
特に、本格もの、叙述ものに関する評論が多く、一種のブックガイドにもなるのではないでしょうか。
この全集特有の解題や註も、乱歩の作品を読み解くうえで重宝します。