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ガセネッタ&シモネッタ

価格: ¥1,646
カテゴリ: 単行本
ブランド: 文藝春秋
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   国際会議の同時通訳を本業とする著者のエッセイからは、女性の書き手とは思えない「頑健さ」や「骨太さ」が伝わってくる。人気作家の椎名誠は、極寒のロシアを取材した『シベリア追跡』の中で、通訳として同行した著者を「実際に極寒地帯に入っていくと、(略)いくつかの状況で男を上回る実力を発揮していった」と言っている。辺境地への冒険をライフワークとする椎名に「重いものの考え方」を投げつけられたと述懐させた厳しい旅で、著者が見せたエネルギッシュな行動力は、本書にもたしかに反映されている。

   日本の国際交流は鎖国時代と変わらないと一刀両断したかと思えば、「フンドシ」や「クソ」といった下ネタが臆面もなく飛び出すという具合に、「強靭な心臓と図太い神経」が必要という同時通訳の現場でつちかわれてきたストレートで聡明な物言いは、きわめて痛快である。

 「カレーライスとライスカレーがどう違うのか、あるいはクソと味噌がどう違うのか」といった文章を、話し手の言葉の真意をつかみ、瞬時に翻訳しなければならない「根本的に無理がある」同時通訳の現場には、著者が語るように「喜劇」の要素が詰まっている。そうした喜劇の数々は、同時通訳者たちの知られざる生態や、国際会議の意外な舞台裏を存分に伝えてくれる。カレーライスの文章がどのように翻訳されているか、本書にてご確認いただきたい。ちなみに、カレーも味噌もロシアにはないそうである。(中島正敏)