歪んだ社会がある限り何世代にも渡って読み継がれるであろう不朽の名作。
★★★★★
人を信じ愛し赦すとは何かを何度も噛みしめることができる作品。
悪に虐げられ脅されても屈しない心を持った登場人物たちの言葉に心癒される。
また人が心を開くのは札束や名誉や権力ではなく暖かい心であるとドストエフスキーは教えてくれる。
個人的にはトルストイに一番近い作品だと思う。
物語の展開も見事で読むほどに話の中に引き込まれて何度も胸を打ち涙した。
語り手のワーニャは作家で等身大の若き頃のドストエフスキーを投影させたようにも思えて面白い。
カラ兄、罪と罰が新訳で脚光を浴びているが、
これも小説の醍醐味を味わえる素晴らしい一冊である。
長すぎる
★★★☆☆
原文もこんなに大仰で回りくどいのか、翻訳者に全ての責任があるのかどちらだろう?テーマ自体は普遍的で、結末は悲劇的、しかし表現がナンセンス。味わい深くシンプルなチーズケーキの周りに、しつこいバタークリームや砂糖菓子やチョコレートをたっぷり塗りたくった出来損ないのデコレーションケーキみたい。物語の核心を、幾重にもとぐろを巻いて覆い尽くす修飾過多で不自然な表現。一枚いくらで書いたためにこうなったのか?より簡潔明瞭な文章の作家が書けば、5分の1から3分の1程度は圧縮できるのではないか?「永遠の夫」や「地下室の手記」の方が良く書けている。登場人物の多くは行動的、にも関わらずリズムもテンポも生まれていない。駄文です。
小説の力を再認識させられた傑作
★★★★★
ドストエフスキーの人間観察力、世相への反発、独特の語り口の巧みさが光る代表作。世の中の支配階級に対して、作者自身が同じ視点に立つ下層階級の人たちが様々な意味で"虐げられる"様子を綴ったもの。
作者の基本姿勢として、貧しくても良いから慎ましく清らかに生きる事の大切さをデビュー作「貧しき人々」から謳っている。本作はその頂点を成すもので、主人公が悪化する病状の中、病床で物語を回想するという構想、"虐げられる"エピソードの挿入法、それでも生きて行かなければならない苦悩、"虐げられる"側の人々の温かい交流と相克。どれも取っても読む者の胸に迫る素晴らしい出来である。
私が本作を読んだのは30年前くらいの大学生の頃なのだが、読む前は健康体だったのに、読み進めるうちに、主人公の病状に合わせるかのように体調を崩して行った事を今でも思い出す。それだけ、思い入れが深い作品であり、小説が持つ力を再認識させられた作品でもある。権力・支配階級に"虐げられる人々"の苦悩と絶望そして微かな光を描き出した傑作。
悲しくも暖かい物語
★★★★☆
この『虐げられた人びと』は、『死の家の記録』を除くと<転向>前のドストエフスキーの最後の作品である。<転向>後の一連の大作群とは違い、人物描写や風景描写の比重が高く、観念の叙述が少ない。というわけで、一般のドストエフスキーの印象とは異なる雰囲気の作品だが、人物の描き方にはドストエフスキーらしさが十分に表れている。
相次ぐ改革によって本格的にブルジョア社会へと移行していくロシア・ペテルブルグを舞台に、虐げる者と虐げられる者の隔絶を描く本作。虐げる者の圧倒的な社会的勝利にも関わらず、強く優しく愛情の中で生きようとする虐げられた人びとの暖かな姿でもって物語は幕となるが、単なる虐げる者対虐げられる者の単純な二項対立では終わっていない。そこには人間のエゴイズムに対する鋭い洞察があり、虐げられた者たちすら傷付け合ってしまうという複雑な様相を描いている。
技巧的にも優れ、話の筋も面白い。当時のロシア読書界に好評を以って迎えられたのも頷ける。文豪の隠れた名作。
死に始まり,死に終わる物語
★★★★★
カラマーゾフの兄弟,罪と罰,悪霊,白痴,・・・あまりにも傑作が多いため時として忘れられがちになる本作品.だが完成度は決して低いものではない.
死に始まり,死に終わる本作.思想性という意味では確かに前述の作品群には及ばないだろう.だがその分解りやすさは,彼の作品の中ではピカ一だ.話に入り込み易いし,登場人物たちも魅力たっぷり.巨匠の入門書という風に捉えて読んでみてはどうだろう.