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永遠の夫 (新潮文庫 (ト-1-6))

価格: ¥500
カテゴリ: 文庫
ブランド: 新潮社
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「永遠の夫」の悲哀と自虐性を、当の浮気相手の目から描くと言う画期的な手法 ★★★★☆
「白痴」と「悪霊」の二大作の間に書かれた小品だが、その精緻な心理描写は相変わらずである。題名は原題の直訳だが、「間男され続ける飾り物の夫」程の意味である。主人公はペテルベルグに住む遺産相続係争中の独身下等官吏ヴェリチャーニノフ。作者が得意とする、神経症気味で金欠だが、気位だけは高いと言う老役人(39歳だが)である。

ヴェリチャーニノフは冒頭から、憂鬱状態になっている。ハタと気付くと、"喪章を付けた男"に付け回されている事が原因らしい。ヴェリチャーニノフの家を訪れた喪章の男はトルソーツキイと名乗るが、亡くなった彼の妻ナターリアはヴェリチャーニノフが地方に居た時の愛人だった。ここで主客転倒が起こり、「永遠の夫」とはトルソーツキイを指している事が分かる。だが、作者はヴェリチャーニノフの心理の糸を手繰る事によって、ナターリアの魔性、そうした女を妻に持つ男の一般論を語る。そして翌日、逆にヴェリチャーニノフが相手を訪ねるが、そこに居た娘リーザは自分の娘らしい...。

トルソーツキイの偏執的な要求による二人の噛み合わない会話、ヴェリチャーニノフの知人に預けたリーザの病死、そして突然のトルソーツキイの結婚話。ヴェリチャーニノフは混乱するばかりである。しかも、トルソーツキイに懇願されて婚約相手の家(係争上の敵対者)へ出向く事になる。繰り広げられる狂騒的な宴。だが、ヴェリチャーニノフの家に戻った二人を訪れた若い男ロボフが口にしたのは...。

ドストエフスキーらしい大きなテーマこそ無いものの、「永遠の夫」の悲哀と自虐性を、当の浮気相手の小役人の目から精緻に描くと言う画期的な手法を採った佳作。
亭主の座にしがみつくしか能がない男の哀しさ ★★★★☆
遺産をめぐる裁判がうまく行かずイライラしている40前の独身貴族ヴェリチャーニノフ。避暑にも行かず、ペテルブルグでもんもんとしていた。その彼の前に喪章をつけた、見覚えのある奇妙な紳士が現われた。それは、以前にヴェリチャーニノフがその妻を寝取った男トルソーツキイだった。彼は、ヴェリチャーニノフが妻ナターリヤ・ヴァシーリエヴナを寝取ったことを知っているのだろうか……。

解説にありますが、翻訳の問題で「永遠の夫」という文学的なタイトルになっていますが、タイトルの原語と内容を引き比べると、「万年亭主」とでもいうタイトルのほうがしっくり来るように思われます。妻は愛人を次々と変えて浮名を流しているのに、亭主のほうはただその座にしがみつくしか能がない、そんな男の哀しさが、やや軽めの筆致で描かれていきます。

「白痴」と「悪霊」の間に書かれ、ドストエフスキーの油が乗り切った時期の中篇です。実存的な強烈な問題意識を前面に出した大作に比べると、キャラクターたちの関係性に重心をおき、哲学的な考察は影を潜めていますが、そのドライで的確な人物の描きかたはドストエフスキーならではでしょう。ヴェリチャーニノフとトルソーツキイ、中心となる二人の登場人物の対比が見事です。肩肘張らずに読める一冊。

伊達男と万年亭主の腹の探り合い - ユニークな短編 ★★★★★
話はペテルブルクに住むモテ男ヴェリチャーニノフに、田舎官吏のトルソーツキイという男が女房が亡くなってから「娘」と共に会いにくるところからはじまる。実はヴェリチャーニノフは数年間この田舎官吏のところにいてその奥方と不倫関係になり、娘まで作ってしまっていたことがあった。これがトルソーツキイが連れてきた「娘」リーザである。本作は「永遠の夫」という邦題で知られているが、ロシア題は Вечный муж である。形容詞 вечный は確かに「永遠」という意味もあるのだが「無期懲役」の「無期」や「万年筆」「万年雪」の「万年」などの意味もあり、本文庫の千種堅氏の解説や江川卓氏の見解によれば、むしろ「万年寝取られ亭主」という題名の方が作品の実態を正確に表わしているのである。ドストエフスキーの作品では珍しく思想性よりも心理描写に重点が置かれた興味深く、どんでん返しの趣向も凝らされた、とても面白い一編である。