終わりの始まりの雨が降る
★★★☆☆
「裏返す」力を持つ家族が主人公となった長編だ。拝島時子と、その母である瑛子の物語が、交互に語られ、一本になっていく。
ここでは、「裏返す」「包む」「洗濯する」というのが、キーワードになっている。通常の意味合いとは少し違う、特別な行為を示す。
裏返されて、裏返された、なにが表だったのか。
正直なところ、よくわからなくなった。結局、何が起きたのか。
あの大きな建築物から出たときに、裏返されたのは誰なのか。
裏返されなかった人物は、本当に裏返されていないのか。
あらゆることが曖昧になる。ここから先、どんなことが起こるのか。
最後にざらりとした感触が残る。
ざわりと、胸底でなにかが身じろぎするような。
これまでのシリーズでも語られてきた暗い時代の予感が今こそ現実になる。
いつも思うけど・・・
★★★☆☆
いつも感じることだが,この作家は状況を規定するのがとても巧みだ.
そして,その中で物語を動かすのも実に上手い.
ところが,登場人物たちには深さが感じられず薄っぺらい借り物のように思える.
また,結末はきわめて凡庸なところに落ち着く.
詰まる所,物語はいつも竜頭蛇尾の印象がぬぐえない.
魅力を携えていた物語が,終わってみればただの凡庸なお話,というのが私の恩田陸への評価だ.
この作品はそういう意味では驚かされし,ラストがダークに終わるのは個人的には面白かった.
ただし,途中で精神世界の描写辺りで中弛みを感じたのと,登場人物たちに強い個性を感じはしなかった点から,結局いつも通りの凡作となってしまった.
シリーズの今後に期待したい.
光の帝国シリーズは好きですが
★★★☆☆
久しぶりに恩田陸が読みたいな、と思って手に取りました。ところが、以前の“ノスタルジーと叙情”はなく、全編が暗い話。かなりがっかりしました。
これからの「常野物語」の有り方についての恩田陸の“宣言”なので、かなり重要だとは思うのですが、はっきり言って面白いとは思えませんでした。
暗いのだけど
★★★★☆
常野物語のシリーズということで、迷わず購入。これは、以前にも出てきた拝島親子の物語です。
短編で読んだときには、「裏返す」とか「裏返される」とか何のことだかわかりませんでしたが、瑛子の夫は”裏返されて”失踪した、ということは、何か良くないことことが起きて、別世界に行ってしまうこと?ぐらいの想像をしてました。
こちらは長編なので、瑛子・時子の親子関係がよく描かれており、また、”洗濯屋”なる人物も現れて、短編を読んでいない人でも内容を理解できると思います。赤と黒がベースの表紙に象徴されるような、人間の「負」の部分が描かれたような作品で、『蒲公英草紙』や『光の帝国』とは真逆の世界。前作のこころあたたまる世界を期待して読むと裏切られるかもしれませんね。
研修旅行に出かけた瑛子が意識不明で倒れて発見されるところから、時子の自分を探る日々が始まります。瑛子は、肉体的には何ら異常はないのに目を覚まさない。母はどうなってしまったのか?緊急のときはここへ連絡するように、と冷蔵庫に貼ってあったメモが消えているのはなぜなのか?そこへ連絡すれば、母は助かるのか?”裏返された”父は今どうしているのか?
次々と時子に覆いかぶさる疑問。時子はこれらをすべて解決して、ハッピーエンドになるんだろうか?
ラストがこれで良かったのかどうか、読者によって評価の分かれるところでしょう。私は、意表はつかれたものの、これもありかな、と思いました。
『スター・レッド』の「常野物語」版?
★★★☆☆
本書は、「常野物語」シリーズ第1編『光の帝国』に所収されている『オセロ・ゲーム』の続編である。
しかし、何というか、ただのエスパー物語(常野一族をエスパーと呼ぶのが妥当であるならばであるが)に過ぎず、それも拝島親子たちの内面世界だけのできごとで、常野物語が今後どのような展開をするかはともかくとしてもシリーズ全体からすれば、前作『蒲公英草紙』同様、番外編の観は否めない。
また、前二作のような感動も余韻もなく再読しようという気はしない。あってもなくてもどっちでもいい作品である。
ただ、「柱の共鳴」やその柱に吸い込まれるシーンは萩尾望都の『スター・レッド』そのままで、さすが萩尾ファンの作者と感心した。
時子を『スター・レッド』の星・ペンタ・トゥパール(強力な超能力を持つ火星人の末裔)、火浦を同じくエルグ(火星人の超能力を調整しようとする異星人)と見なせば、全体の構図が似てくるしね。