スタヴローギンになれなかった男
★★★★☆
時世を10年単位でセグメントしていくとするなら、
'00年代は宮部さんの「模倣犯」に始まり、村上さんの「1Q84」で締め括られる。
「1Q84」を読みながら、そんな想いにかられた。
ホコリをかぶった本書を棚の奥から引っ張り出し、再読する。
'90年代という世代を考えると、
奇しくも'89年という同じ年に起きた女子高生コンクリート詰め事件と宮崎勉事件から、
'94年のオーム、'96年の酒鬼薔薇、'99年のライフスペースと、
ワイドショーに求める刺激は強くなっていく一方だった。
それを逆手に「お前らを楽しませてやろう」と出現したのが網川浩一だった。
ドストエフスキーの「悪霊」で、ピョートルがスタヴローギンに心酔したように、
栗橋浩美はピースに心酔し、高井和明はシャートフと同じ運命を辿る。
浦沢直樹さんの「MONSTER」ヨハンもそうだけど、知的な犯罪者はスマートに見える。
容姿もスマートなら、語りもスマートだし、生き方もスマートだ。
それは悪魔でありながら天使であり「神の子」のようですらある。
ハンニバル・レクターのように。
でも、現実の事件はどうだろう?
テレビの画面に映し出された誰がスマートだっただろうか?
作品の中で描かれるのは加害者はどこかの被害者で、被害者はどこかの加害者。
宮部さん独特の人間への慈愛が作品の節々にあふれている。
それでも読後感は哀しい。
確かに現実の事件でも加害者はどこかの被害者だったかもしれない。
だけど、それを知ったところで、被害者が納得するわけがない。
それを知っていたからスタヴローギンは自ら首を吊るした。
ピースは最期まで己が神だと誇示し続けた。
読後感の哀しさは、この人間の愚かさへの哀しさなのかもしれない。
丁寧なサスペンス
★★★★★
読後の感想は「長い。けれど、読み応えある丁寧なサスペンス」
時間をかけただけはある。著者の主張がいたる所に散りばめられている。
義男とピースのやり取り、編集長と滋子の対峙。と読むべき個所は随所に。
丁寧という印象はおそらくそこから来ている。
登場人物の過去、心理描写にページを割くあまり、「長い」小説となっているのは
仕方ないのかもしれない。
「火車」ほどのスリリングさ、テンポのよさはないかも知れないが、この小説には
随所に盛り上がる個所があるため長くても読めてしまう。
殺人事件
★★★★☆
上下巻の上巻です。
どちらともとても分厚い。
その中には登場人物ひとりひとりの気持ちが深く記されています。
一番印象的なのが孫が行方不明になった老人の気持ち。
色々な情報が詰まっているので老人の出来事がよく知る人のことのように感情移入できます。
なんでこんな酷い事ができるの?、自分を正当化するイっちゃってる犯人、
小説の中だけにしてほしい。。。が、実際こんな事件はたくさん起こっているし
巻き込まれた被害者もたくさんいる。
被害者の気持ち、犯人の気持ちがいろんな意味で痛いほど伝わる悲しいお話です。
長いですが苦労して読んだ分、この物語の一登場人物になったように
一緒に怒り、一緒に泣けることのできる作品です。
通勤のおともには最適
★★★★☆
『(登場人物)は現在〜な状態である。そもそも(登場人物)は〜(人となり、生い立ち、環境などの説明)である。だから、今、〜なのだ。(短いエピソード)。と、いうことは、どういうことなのだろう?』この繰り返し。個々のエピソードはそれなりに面白いのでどんどん読めますが、あまりにも数が多いため、三分の二程度まで読み進むとほとんどの章がこのような同じ構成であることに気づいてしまいます。そして丁度その頃合で、お話自体も何か別の世界の物語のように変わってしまいます。前半の細かく繊細な思考や行動をする人々がいなくなり、大雑把で場当たり的な人々だけしか登場しなくなる、または同じ人物であってもまるで別人のように思考力を失って迷走してしまう。後半の物語をまとめ、終わらせるためには仕方ないことなのはとても理解できるのですが、要するに作者のご都合主義が「果物皿の中のモナリザのように、面白いほどよく見え」てしまいます。最後のどんでん返しもとってつけたように感じました、なぜならラストに至るまで「その人物がそのポイントにそんなにも」拘泥しているという描写が無かったから。そして最後のまとめ方。終わりよければ全て良しですか?「世の中を甘く見て」いるのはいったい誰ですか?……とこう批判的な意見を述べましたが、全体の感想としてはとても面白かったです、タイトルにも書きましたが通勤しながらちょっとずつ読むには最適です。私がこうも穿った批判的な感想を持ってしまったのは、ついおもしろくて、後半部分を休日に家でじっくり読んでしまったのがなによりの失敗ではないかと思う次第です。
お勧めの一冊
★★★★☆
時間をつぶすには最適な本ですお勧めな一冊です。宮部みゆきは、面白いですね。登場人物がいっぱい出てきます。事件に関係ある人ですが、誰がどう関係するか、あとになって絶妙につながって、関心します。それにしても、700ページの半分くらいで、犯人が誰だかわかり、動機や犯行の手口が明らかになってくるわけですが、下巻には何が書いてあるのでしょうか・・・。早く下巻が読みたいでーす。