怠ける権利
★★★★☆
フランスの社会主義者でマルクスの娘婿であるラファルグの著作を収録したもの。フランス革命で宣言された人間の権利は所詮ブルジョワの権利に過ぎず、それは所有権と労働を賛美する資本主義によって規定されていた。ラファルグが皮肉たっぷりに描写するのは労働者階級がフランス革命を経て一層悲惨な境遇に堕ちていく必然性であり、それを克服するためには「怠ける権利」が宣言されなければならないという。フランス革命に見られる、いわゆる「第一世代の人権」の持つ限界を見事に指摘した一書である。「怠ける権利」・・・。その表現は聞く者をして、ラディカルを通り越してあまりにも度が過ぎると感じさせ、苦笑とともに一蹴させてしまうかもしれない。だが、ラファルグの思想の核心にあるのは、フランス革命の理念が資本主義の自由労働イデオロギーに支配され、「労働=神聖」という認識を内面化させられた労働者階級は「人権」とは無縁な、働けば働くほど搾取され、悲惨な境遇に置かれ続けるという状況への批判意識である。
共に収録されている「資本教」、「売られた食欲」も資本主義に対する強烈な風刺のきいた批判となっているが、その小説的な言論のスタイルはマルクスやエンゲルスのそれとは大きく異なっていてこれはこれで興味深い。
怠惰に幸あれ、労働に呪いあれ
★★★★☆
巷では小林多喜二の『蟹工船』が流行っているそうですが…
この本を忘れてはいけません。
労働運動、どころじゃない。
自然の本能に復し、ブルジョワ革命の屁理屈屋が捏ねあげた、肺病やみの人間の
権利などより何千倍も高貴で神聖な、怠ける権利を宣言しなければならぬ。一日
三時間しか働かず、残りの昼夜は旨いものを食べ、怠けて暮らすように努めねば
ならない。(本書37ページ)
「資本教」の神が創りたもうた、働けば働くほど貧しくなるこの世界にうんざりしたあなた。
「怠惰」こそが神聖な権利、そんな世界もあり得ることを知ってください。
生産力の増大が資本家の懐を潤すだけの社会に反旗を翻しましょう。
ちなみに余談ですが、自分の娘婿の著作であるにもかかわらず、かのマルクスは終生この本を無視し続けたそうです。これが資本主義はおろか共産主義まで転覆しかねない(何しろ勤勉さそのものを否定するんですから)キワモノであることを見抜いていたんでしょうか…
万国の労働者よ、怠けよ
★★★★☆
一生懸命に働いてはいけない。なぜなら労働者たるもの、働けば働くだけ搾取され貧しくなるだけから。自分のために働いているつもりで、資本家たちの欲望追求の役にたっているだけだから。われわれの過剰な生産は、かれらの過剰な消費とセットになっている。テキトーに働けばいいのです。
と130年前のフランスの社会主義者(マルクスの娘婿)はいう。だから、一日に3時間以上働くなと。主張は明快。表題作以外に、資本主義は信仰にすぎないことをキリスト教のパロディとして描く「資本教」と、自分の胃袋まで資本家に売ってしまう男の悲劇を描く小説「売られた食欲」を所収。評論、パロディ、小説とジャンルも多彩で楽しめます。
もちろん、機械化による生産性向上が過剰労働力や大量の失業、貧困に直結していた当時と異なり、現代は労働者と資本家が明確に対立しているわけではないし、その後できた共産主義国家がなくなってしまったから説得力は半減。しかし、労働自体に価値を見出すことは倒錯なのだということを簡潔に、面白く伝える力は衰えていません。自殺者年間3万人の真面目すぎる島国の住民は今でもなお読みなおすべき本では。
万国の労働者よ、怠けよ?