プラグマティックな幸福論
★★★★★
本書解説P287より引用します
「「ラッセル 幸福論」の特徴は、アランのそれのように文学的・哲学的でもなく、ヒルティのそれのように宗教的・道徳的でもなく、人はみな周到な努力によって幸福になれる、といった信念に基づいて書かれた、合理的・実用主義的な幸福論である点」
前半で不幸の、後半で幸福の原因が平易に書かれています。
この本からパクった「人生論」が数多くあると思われるので、内容自体に目新しいものは少ないですが、やはり、第一級の哲学者の文章はすばらしく、そして面白いです。
「幸福な人とは、客観的な生き方をし、自由な愛情と広い興味を持っている人である」(P268)
「愛情を受ける人は、おおまかに言えば、愛情を与える人でもある」(P269)
「たいていの人の幸福にはいくつかのものが不可欠であるが、それは単純なものだ。すなわち、食と住、健康、仕事上の成功、そして仲間から尊敬されることである」(P266)(後半はなかなか難しいかも)
熟読すべき書の一つでしょう。
幸福になるために
★★★★★
20世紀を代表する思想家の一人、バートランド・ラッセルによる、幸福を獲得するための処方箋。数学者、論理学者としての功績が有名だが、ラッセル=アインシュタイン宣言の人、といった方が一般的には馴染みがあるかもしれない。
本書の驚くべき特徴は、多くの哲学者の本と異なり、文章が非常に平易で読みやすく、抽象的な理念よりも現実に即した議論が展開されている、という点である。それにも関わらず、80年前に書かれたとは思えないほど、現代の社会も抱える問題を的確に突いているのだ。
例えば、第一部では様々な不幸の原因とその対処法について述べられているが、第三章以降のタイトルを並べていくと「競争」「退屈と興奮」「疲れ」「ねたみ」「罪の意識」「被害妄想」「世評に対するおびえ」となっており、これらが現代においても変わらず不幸の主要な原因となっていることに気づく。そして、自分自身の中にも、このような感情が隠されていることに気づく。そこでラッセルが提供している治療法とは、自分の物事の見方が幸福の獲得の妨げになっているという事実を自己認識し、そこから抜けるためには外の世界への興味を広げることである。
第二部では幸福をもたらすものについて述べられているが、そこでは熱意をもつことや、愛情、家族、仕事といったテーマが扱われている。ラッセルの主張の中で最も重要だと思われることの一つは、解決不可能な問題や自らの欠点について、眼を背けることを勧めているという点である。つまり、くよくよ悩んだり自己否定をしたりする暇があるなら、自分が没頭できる趣味や仕事など外の世界のものに意識を向けることが良いと主張している。
個人的には、内省の価値はもっと評価されるべきだと思うし、悲嘆や悩み・苦しみを味わう時期を否定することは滋味あふれる人生の否定にもつながるのではないかという疑問もある。また、幸福獲得につながる一貫した理論があるわけではなく、ところどころ他の記述と矛盾しているようにみえたり、吟味が足りないと感じたりする箇所もある。
しかし、それを越えて伝わってくる筆者のメッセージとは、多くの人は幸福になる資格があるのであり、だから幸福になるべきであり、そして実際に幸福になることが出来る、という力強いメッセージである。読み終わったその瞬間から、自分が幸福に向けて一歩を踏み出した気持ちになれた。
もっと早くに出会っておきたかったと思うと同時に、今出会っておけて良かったと思える一冊だった。
平凡な平民には納得できない所もあります。
★★★☆☆
まず伝記から...
天才だけど奇人と言われている人です。一応、ノーベル文学賞は取りました。論理的だけど、気分屋で激情型の人だと思います。結婚は5回。自分の中にではなく、自分の外に幸せを求め続けました。反戦運動を続けたことを見ると、基本的には善い人だと思われます。
貴族出身なので、教育を受けていない人や、能力の無い人や、お金のない人には関係のない幸福論を展開しています。アメリカ的なプラグマティズムに属する考え方で、わかりやすく言えば、普通以上の能力の人が努力して、いろいろな困難に打ち勝つ方法論を述べています。どんなに頑張っても、今の状況から抜け出られない平凡な人々へのコメントはありません。たぶん、これは、ラッセルが自分のために書いた幸福論だと思います。
しかしながら、文明が進むと出生率が下がる理由や、フロイト的な無意識の感情が不幸をもたらす原因になるから、どのように行動したらよいかなど、鋭い観察も述べられているので、星3個としました。
仏教の教義の一つに、執着を無くすと言う教えがありますが、ラッセルはこれを「あきらめ」と見なしている点は興味深い。
まだ読むのは早かったのかな・・・
★★☆☆☆
不幸の原因と、幸福をもたらすものについて、整理されています。
難しい言葉で長々と書かれていますが、各項目はわりとありきたりなこと。
まだ読むのは早かったのかな・・・
体系的にまとめられた幸福論
★★★★★
ラッセルが1930年にThe Conquest of Happiness(幸福の獲得)として世に出した本書は、岩波文庫により幸福論なんて大層な名前を付けられた。お陰で哲学書っぽくて何となく手を出しにくい雰囲気が漂う。世の中に不幸な人で満たすための陰謀なのではないかと疑いたくなる。
幸福を得るためには、客観的な生き方をし、自由な愛情と広い興味を持って世界に関わることだ。極端な自己否定も肯定もない中庸な生き方、つまりバランスのとれた生活を送って、他人を愛することこそ幸福であると主張するこの本には、より能動的なタイトルがふさわしい。
鬱病関連の本を読むことがあるが、書いてあることが、まんま鬱になりやすい人へのアドバイスと同じなのに驚いた。「幸せを求めて」なんてタイトルはどうでしょうかねえ。