著者は瞑想や禅仏教に関する心理学的理解においては日本の第一人者的存在。これまでは理論的側面に力が注がれてきたようだが、本書では精神科医としての具体的実践についても触れられている。“ZEN”という言葉で従来の「禅」の厳しい宗教修行という印象を取り払い、世界的視野からわが国の貴重な精神的伝統を引き上げることは、今後の日本人にとって確かに非常に重要なことだろう。心理療法の角度から切り込んでゆく本書のアプローチは、そのことに見事に成功している。著者の実践は長年にわたる地道な研究や禅の経験に裏打ちされたもので安心できる。あえて平易な言葉を使用している部分にも、豊富な臨床経験で磨き上げてきた様子がにじみ出ていて、地に足のついたものになっている。表紙のイメージにとらわれず熟読されることをお勧めしたい。専門家にはもちろんだが、現代社会を生きるための入門書として、多くの読者に価値あるコンパクトな好著だと思う。文章はとても読みやすい。