とても面白いけれど…
★★★★★
第1〜7巻までの感想です。
とても面白いです。非常に詳しく調べられていて、それが隅々まで生かされています。イタリア好きの人、歴史好きの人、ぜひ手に取って見て欲しいと思います。
ただ、気になる点が二つ。ネームの文字遣いなどです。例えば“達”の字です。この字の読みは“たつ”で、友達以外で“たち”と読ませるのは誤用です。かなりの人が、やっているので仕方ないですけど。それと、ことわざですが、正しくは“過ぎたるはなお及ばざるがごとし”で、「なお」が入ります。せっかく史実についてこだわられているのですから、こういった点にも心配りをお願いしたいものです。
もう一点は、物語の進行が遅いことです。さほど長くないチェーザレの人生ですが、このペースで行けば、何巻になるのでしょうか?
学校では学べないチェーザレ・ボルジア
★★★★★
マキャベリを読んで以来、チェーザレファンです。1077年のカノッサの屈辱から約5世紀。ダンテとハインリッヒ7世との間にあのような交流があったとは…マキャベリは、チェーザレをヴィルトゥをそなえ、フォルトゥナを引き寄せる新しい人間像として描き、(国富論を書いたあの)アダム・スミスも還俗後のチェーザレの実力行使を否定的な評価はしていない。なのに、世界史の教科書からは、チェーザレ・ボルジアもアレッサンドロ6世も消えつつあるようで…
グイッチャルディーニや『チェーザレ・ボルジア−あるいは優雅なる冷酷』の一面的な叙述とはまったく異なる、総領冬美さんの『チェーザレ』は、読者を惹きつけて放しません。サチェルドーテの”CESARE BORGIA”、邦訳、出ないかなー
相反するもの
★★★★★
■聖なる理想と、清からぬ現実
序盤の「降誕祭」。
“荘厳”とはこのことであろう。
紙面・漫画という表現でありながら、“聖なる理想”が語られる教会内の
空気や集う人々の声音、ミサ曲さえもが耳に流れ込んでくるかのようだ。
まるで映画のワンシーン、否、現実にヨーロッパで行われている教会のミサを
みているようで、こちらまで清らかな気になった。
しんしんと降る雪。チェーザレやジョヴァンニの姿も、心も、このときばかりは
清く聖なるもののヴェールで覆われているせいだろうか、表情やしぐさがあたたかい。
その一方で気になるのは、乞食の親子(?)のカット。
町の片隅でぼろをまとい、寒さと飢えをすこしでもしのぐように
固くよりそいあっている。だが、子どもはついに息絶えたのだろうか・・・。
手がだらんと垂れ下がる。
が、だれもその様子を知らない。
彼らの頭上で、主をたたえる歌は響いていく。
教会の中での「聖」が体現されていく一方で、過酷で「清からぬ」現実がある。
それはチェーザレをはじめとしたすべての存在、人や世のオモテとウラをも示唆しているようだ。
「降誕祭」における一連のシーンは、その意味でも奥深い描写があり、極めて印象に残る。
■「聖なる悪魔」
“カノッサの屈辱”が、単なる叙任権闘争のみでなく、「金・財物」が
絡んでいるというのは、この事件を“政治的に”読み解けば素直にイメージできるだろう。
教皇だろうが、皇帝だろうが、どんな大義名分がひそんでいようと、
結局は“権力闘争”であり、欲望の激突だ。
ダンテであっても然り、だ。
彼自身が彼自身であるがための「生」はどこにあるのか。
“神と神の御世”の中で、ダンテという個の存在、彼自身の想いが
発揮されるためにはどうすればよかったのか。
時代と人、様々な空気が入り乱れる中で、貪欲にもがいて
生を充実させたいとする、生身の人間。
一方で崇高な理想をもとめようとする、魂・・・。
さて、グレゴリウス7世は“神”ではなく、教皇という
“神の代理人”である。
そう、あくまでも“代理人”にすぎないのである。
よって、心底“聖なるもの”にはなれない。
と、現代的な見方をしてしまえば、
面白みにかけるし、安易な結論と言われがちだが、
にしても「聖なる悪魔」とはよく表現したものだ。
「教皇派を叩き潰せ!」
ダンテから流れる、チェーザレの台詞は、さきほどの降誕祭はどこへやら、
一転して世俗的であり、おのれの感情を露にした瞬間でも
あるのだが、ここに彼のそして、ダンテの果てはグレゴリウスの
「聖なる悪魔」の姿があると思う。
「なんという混沌(カオス)いや、調和(アルモニア)か・・・」
そして、これこそが、人であり、時代であり、歴史を
表現する究極のWORDだろう。
相反するすがたの中で歴史は動く。
いくつもの思惑が絡み、複雑に、社会と時代は構築される。
理想と欲望、何が正しくて何がわるいのか・・・。
すべては、渦巻き、そしてシンプルに流れていく。
相反するものは、破壊と創造を生み出す。
それは「皇帝と教皇」のすがたでもあるのだろう。
読了して、そんなことを考えた。
私もかつて西洋史を学んでいたことがあるのだが、
やはりこの史学ジャンルをひもとき、論を立ち上げ、展開してくのは、本当に難しいと思う。
(研究者レベル、いやそれ以上にフル回転させていると拝察する)
そんななか、惣領先生のアイデアとストーリー構築力には本当に頭がさがる。
すばらしい作品なので、今後も注目していきたい。
歴史は謎解き、権力闘争は続く。
★★★★★
中世にローマを重ね、チェーザレには華麗な僧服と知性を織り込んだ一巻。歴史考証と創造の才がつむぎ出すリアルな中世。巻頭カラーは美しい。いずれカラー原画集を期待したいところ。
権力の本質はどこにあるのか?を探求するチェーザレの前にローマの歴史が語られる。
惣領さんの画、文末の解説まで楽しめる。
ダビンチコードより、このチェーザレのほうが謎多く、スリルも。
これだけ深い歴史考察を美しく楽しめる漫画にしてくれる惣領さんたちチェーザレ創作チームに感謝。
今回はアンジェロの出番は少ないか。ダンテより多くのインスピレーションを得たであろう、イタリアが見える。
チェーザレの魅力
★★★★★
コミック派の私は新巻が出るたび、購入を迷います。
それは、次巻までの待ち期間が狂おしいから。
でも、やっぱり購入してしまいました。
面白い。
画の美しさも増して、この巻は物凄く丁寧に「カノッサの屈辱」、ダンテの「神曲」の真意についてチェーザレの見解が描かれています。
これから激動の時代を駆け抜けるチェーザレにとって足場となるものでしょう。
ニッコロの叫びとともに、粋な終わり方の7巻。
次巻がとても楽しみです。