才能のつまみ食い
★★★★☆
才能のある人は、
全てのことに才能があると勘違いするもので、
すぐ飽きて次のことに手を出す。
青島さんは、テレビ作家として、
タレントとして、作詞家として、
大衆小説家として才能を発揮した。
その結実のひとつがこの小説だ。
わが家の歴史を描いて読んで飽くことがない。
ところで、青島さんは、映画監督として小さく失敗、
そして国会議員としては中成功。
都知事としては大失敗し、都民に多くの負を残した。
才能があると言うのも考えものなのである。
これぞ大衆文学!
★★★★★
作者自身は放送作家として、作詞家として、喜劇俳優として、政治家として、あまりにも有名でありながら、小説家としては知名度は低い。いわんやこの直木賞受賞作をや。
戦前から戦後にかけて、下町の人々の生き様を描く小説。主人公のハナは作者の母親がモデルである。
まずなんといっても注目すべきはその文体。講談、あるいは落語のような、テンポのよい語調で軽やかに物語はすすんでいく。
戦時中を描くのであるから、もちろん明るい話ではすまない。東京の街は焼け野原になるし、戦争で散る命もある。しかし、何があってもあまりしんみりしない、笑いで悲しみを中和してやろうと試みるような、そんな下町人情を浮かび上がらせるのに、この軽やかな文体はまさにピッタリである。
このあたり、作者にとっては計算どおりなのだろう。青島幸男といえばテレビ世代の申し子として数多くの仕事をこなし、お茶の間の人気者の地位を不動とした男である。エンターテイメントとはどういうものか、人を楽しませるためにはどのような手が考えられるか、髄まで知り尽くした人間なのだ。
もともと彼は文学青年であったという(作中でも、作者本人がモデルと思われる次男坊の幸二について「本にばかりかじりつくようになった」との描写がある)。たとえ売り物にする小説を書いたのは初めてといえど、文学青年としての経歴と、それ以降の職業遍歴とで、十二分にノウハウは身につけているのだ。
この作品には、軽く書いていながら浮ついていない安心感がある。それは彼が充分に下地をつくっていて、それを土台にこの物語を組み上げているからだ。他の誰も真似のできない深い経験がそれを可能にしたのである。
そして、内容は彼がどうしても書きたいと思っていた、両親はじめ彼の少年時代の周囲の人々についてのものだ。日本の娯楽の歴史にその名を燦然と輝かす稀代のエンターテイナーが、その思いの丈をこめて書き上げた小説が、面白くないわけがない。
一時期電子書籍以外の媒体では入手しづらくなっていた本書だが、現在はまた再版されている。この機会、逃せば次はいつになることか。読むなら今のうち。
予想以上!
★★★★★
すごくよかった。日本橋が舞台となっていたのもなんとなく親近感が湧いたこともあるけれど、テンポもいいし、気取りもなく、微笑ましい中に「なるほど」と感心させられること度々。戦前戦中戦後の中で主人公のハナの心の動き、周りの人々との関わりながら成長していく。「日本橋から神田まで見渡せる」といった焼け野原の場景も単純だが思い知らされる。