タイトルのこの台詞は、二人の逢引きの場面で少女が言う台詞。この台詞が「北の愛人」の中で一番心に響いた。私はこの少女を抱きしめ、一緒に泣きたいような気分になった。「この場合お父様は折れたかしら?」つまり、中国人青年と結婚できるかを、少女は言葉の中で暗示しているのである。自分自身がまだ子供のようないたいけな身体をしていながら、青年との愛を交わしながら、それが性愛だと思っている少女。愛ではないと信じ込もうとしている少女。それが妊娠したかと思った瞬間、青年に子供が生まれて二人であやしている夢まで語る。このシーンは「愛人」にはない。
「北の愛人」はデュラスが映画化を試みて書いたとあったが、「愛人」でおおまかな輪郭を掴んでから読むと、登場人物の細部がよくわかる。この「北の愛人」で、少女と青年の愛をデュラスは邂逅していたのではないかと思うほど。特に少女、青年、エレーヌ・ラゴネルの描き方が率直な感じを受けた。
「愛人」を読んだら、是非次に読んでいただきたい作品である。