川端康成の凄さに圧倒される
★★★★★
「ショート・ショート」の様な軽い小説集かと思いきや、とんでもない話でした。
ここに収められた122篇の作品は、どれもが珠玉の「純文学」で、どうしてこんなに短い中にこれだけのものが収められるのだろうと不思議になるくらい、一つ一つの作品が凄く重厚な一つの世界観を持っています。
それだけに、その作品群に圧倒されてしまい、一つの作品から次の作品への切り替えがついてゆけず、中断すること度度でした。
それぞれの作品をこんなに凝縮して表現しなくても、そのネタをもっと長い小説にした方がお金になるだろうにと考えるのは下種のそれでしょう。
読み終えてみると、その中には「怖さ」を感じるものもあり、「微笑み」を誘うものもありといろいろですが、何となく122篇の小説を読んだ(確かに読んだのだが)と言う満足感があり、それはその数だけの長編小説を読んだ満足感でもありました。
それにしても川端康成と言う作家の実力、凄さを感じ、圧倒されました。
「火に行く彼女」に尽きる
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勿論、他の作品も素晴らしいのだが、何回読んでも強烈な印象を放っているのは「火に行く彼女」。
たった2ページほどの作品であるのに、心をかきむしられるような気持ちになるのは、皆の心の奥底に眠っている感情を題材にしたからであろう。
「夢は私の感情である・・・」と書かれているエピローグの文章は絶品。
少女の官能的美の珠玉
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掌編と短編の異なる点は、掌編がより短いという事だけではない。
掌編はそれ自体で起承転結を盛り込み、完結させなければならないので、一字一句たりとも「遊ぶ」余裕が無い。
この作品集は、収録作品数が多く、一字一句の無駄もなく、たゆまない美を追究する、著者の世界観が凝縮されている。
本書のエッセンスとして、著者の「舞姫」が持つリアリズム、「みずうみ」が持つ少女の官能的美、に通じるものを感じる。
特に、著者が追求する美の一つに、少女の処女性に対する美があるが、本書には「みずうみ」に近い作品が、いくつかある。
その印象は、清らかで純粋というよりも、対象が少女であるにもかかわらず、官能的なのだ。
特に、「雨傘」の完成度の高さは、文学的意味でも、特筆すべきだ。
これだけ多くの掌編を読むと、著者が描こうとしている世界が、薄皮を剥ぐが如く、段々と見えてくる。
本書を友としながら、著者の「眠れる美女」を読むと、より深く楽しむ事が出来ると思う。
本作品集は、著者の最高傑作の一つである事は確かだ。
最高の詩集
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三島由紀夫が「川端さんの詩集」と評したが、至言であろう。
美しい日本語の文体とはこう云う作品を指すのだと思う。どんなに動きのある描写であっても、川端作品の根底には常に゛静寂゛が流れている。本作の「河童事件」などは典型的な例だ。
その他にも「月」「しぐれ」「反橋」「夏の靴」「有難う」など川端の詩精神が高度に結晶した佳品揃い。(この作品には傑作と云う表現は重々しくて使いたくない)
この偉大なノーベル賞作家の全作品中、いの一番に読んで欲しい一冊。
お薦めです!
★★★★★
登場人物の描写(特に女性)が良かった。川端康成の小説に登場する女性は皆さん幸せ者だなと思いました。こんな風に見つめられると嬉しいものです。いい意味でのエロさを持ちつつ、丁寧に人間(自分自身も含め)を見るという事はいい作家共通の性質なのでしょうか。いやぁ〜いいエロさだったなぁと一話読み終える毎に思わせてくれる小説でした。(官能小説ではありません)
これから読む方、どの話から読んでも楽しめます。それぞれの題名も見所です。