しかし、本書はとてもよかった。もちろん、内容は虚実さまざまな、闇鍋のような本なのだろうと思うけれど、「HANA-BI」の製作ドキュメントはじめ、圧巻のコラムがいくつもある。笑えるエピソード、泣かせる記述、実に盛り沢山。私が唯一不快だったのは、ふだん評論とか論説とかでエラそうなことを言っている人の文章が、他とは桁違いに退屈であったこと。こんなものを後半にもってきたら後味が悪いのに・・・。
と、いうわけで、本書は並の小説やノン・フィクションよりも楽しめた。とはいえ、ひとつだけ気になることがある。この本は7年以上前の作品であるが、現在も基本的に同じ考えである。
たけしは時局についてしばしば発言していて、かなり無責任な放言ととれることも平気で言っている。世の中も、今や「世界の巨匠」である彼の発言を尊重する風潮がある。しかし、彼にはもし立場が悪くなったら、「オイラはどうせお笑いなんだから、いちいち信じるんじゃねえよ」と言える逃げ道があるのだ。彼が彼らしく毒舌をふるい続けることを私は否定しないけれども、世の中には常にそれを悪用しようとする輩がいることを、どうか自覚してもらいたいものだと思う。「新潮45」で、彼がかつて徴兵制復活を叫んだことがあるのを、私は忘れていないのである。