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崩れ (講談社文庫)

価格: ¥407
カテゴリ: 文庫
ブランド: 講談社
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著者と共に様々な自然の「崩れ」が味わえる貴重なエッセイ ★★★★☆
著者72才の時の作品。安倍川の崖の崩落跡を見た事をキッカケに、「崩れ」に取り憑かれたような著者の自然への脅威・畏敬の念と、それに纏わる人間関係を練達した文章で綴ったもの。

とにかく著者は多くの崩落跡を良く歩く。第一印象が大きかったのであろう。科学的分析などでは無く、著者の見聞・印象を活写する。崩落現場だけではなく、行程上の樹木や水流や岩道なども木目細かく描かれる。崩落現場ながら、読む者に美しさを感じさせる程である。そして、崩落の原因にある種(地盤、水はけ等)の"弱さ"を感じたり、「崩れ」を描く事によって、その土地の人々が従来持っている人間関係の「崩れ」を固定してしまう事を恐れる(結局は描いてしまうのだが)。「崩れ」の観察旅行の帰り、娘夫婦の家を訪ねると、服装について心配される(著者はそれまで和服専門、旅行はズボン)シーンがあるが、著者は「崩れ」と自身の老いとを重ねているのではないか。 それにしても、著者の描写は瑞々しい。まさに少女のような好奇心と清新さ溢れる感性で、自然の峻烈さを映し出している。しかも、自然を"恐れて"いるのではなく"畏れて"いるのである。"木花開耶姫"の話も二回出て来る。後半は、崩落と言うより噴火や土石流の話になるが、これも広い意味での自然の「崩れ」であろう。

本書を単なる老人の「見てある記」と峻別しているのは、「崩れ」に焦点を当てて自然と対峙しているからであろう。自然の「崩れ」に着眼した文学者と言うのは珍しいと思う。著者と共に様々な自然の「崩れ」が味わえる貴重なエッセイ。
心の中のもの種 ★★★★☆
「何も美しいもの、いいものだけが人を惹くのではない、大自然の演出した情感はたとえそれが荒涼であれ、寂寞であれ、我々は心惹かれるのだ」。72歳にして崩れを目にし、心の中の種が芽を出し幸田文。各地の崩れを取材し、自然とそこに生きる人々のくらしを淡々と語りながら自分を振り返る。一つ一つの景色のたしかな描写。引き締まった緊張感がある。