本作『Thrak』は、80年代の再結成後にリリースされた『Discipline』『Three of a Perfect Pair』『Beat』を引き継ぐ内容となっている。オリジナル・メンバーであるロバート・フリップ、エイドリアン・ブリュー、トニー・レヴィン、ビル・ブラッフォードに、スティック(ベースに似た楽器)のトレイ・ガンとパーカッションのパット・マステロットを加えた編成だ。音楽的には80年代のクリムゾンのアルバムと似ているが、民族的なリズムへの関心は薄れ、弦楽器の出番が多くなった。ブラッフォードとマステロットは精力的なプレイで存在感を発揮しているが(「B'Boom」は必聴)、どちらかと言えばサポート役に回っている。ブリューは、ソロ活動でそれなりの成功を収めた後での参加となるが、これで以前のポジションに完全復帰。彼はすべてのボーカルを担当するほか、バックで個性的なギター・ワークを披露するなど、大車輪の活躍ぶりだ。(Adem Tepedelen, Amazon.com)
90年代クリムゾン
★★★★☆
キング・クリムゾンの1995年作
1994年のミニアルバム「VROOOM」に続き、姿を現した第四期クリムゾンの全貌。
ロバート・フリップ、エイドリアン・ブリュー、トニー・レヴィン、ビル・ブラッフォードに加え、
トレイ・ガンとパット・マステロットを加えた6人編成で、リズム隊が4人もいるという
ダブル・トリオと呼ばれる面白い編成で作られた。硬質感を重視したサウンドは
いわゆる「メタルクリムゾン」などともと言われるが、中盤以降には、ゆったりと聴かせる叙情ナンバーもある。
随所にサウンドスケープ的なシンセやメロトロンの音色が散りばめられ、ヘヴィなダークさを緩和させながら、
2〜5分台のコンパクトな楽曲を連ねてゆく感じだ。エイドリアン・ブリューの歌も80年代作品で聴かれた
キャッチーな雰囲気とともに、立派に作品の世界観に貢献している。かつての名作「Red」や
「太陽と戦慄」あたりの感触を垣間見せつつ、90年代という時代に対応させたプログレ作品である。
これは、聴いた方が良い。
★★★★★
キング・クリムゾンが苦手な人にもお勧めしやすい一枚。
ダブル・トリオという奇怪な編成による、最初で最期のフル・アルバム。
まぁ、この一枚あるだけでも良いって事にしましょうよ・・・と言う位、各メンバーは、個性派揃い。
別にバンド組まなくっても、一人でやっていける連中ばっかです。
でも、そういった連中が六人揃って、一つのものを作ればどうなるか・・・?
答えは、このアルバムにあります。
まぁ、演奏は、割とシンプルに徹している方だと思うので、聴きやすいアレンジだと思います。
なにより、曲が良いし・・・。
デビュー時のクリムゾンについていけない人は、数多く見てきたが、これなら気に入るんじゃないでしょうか?
遺跡
★★★★★
95年発表。小手調べ的なミニ・アルバム『VROOM』、その後のアルゼンチンでのライヴを収録した『B'Boom』発表後に登場した待望のフル・アルバム。1.6.10.13の4曲が、『VROOM』からのリ・アレンジによる収録だが、よりシェイプ・アップされた印象だ。
1.の冒頭でのメロトロンの響きやその直後に来るメタル的なギター、ブリッジの80年代クリムゾン的なアルペジオなど、どちらかと言えば懐古的なサウンドで再構築した楽曲が多いが、そのどれもが高いクオリティを有しており、ブランドとしての“クリムゾン”を逸脱はしていない。正直なところいつ聞いても軽い興奮を覚えてしまうほど刺激的なサウンドと年輪を重ねた優れたソングライティングはもはやこれ以上は望むべきもないといったクオリティに至っていると思う。
ダブル・トリオという体裁で復活したクリムゾンだったが、制作までに緻密な計画とリハーサルがくり返されただけに既に発展する余地が残されず、80年代のように八方ふさがりになってしまったのは皮肉。演奏者が多すぎると言う物理的な要素は結果として問題点にしかならず、グループはプロジェクトという名称で小規模化を計った。結果としてブラフォード、レヴィンが脱退し、楽曲の進歩性も含めてダブル・トリオという編成は事実上の“失敗”だったと見るべきだろう。しかしながらこの貫禄と圧倒的なクオリティは彼らでなければ生み出せなかったはず。まさに王者のピラミッドのような遺跡である。
「宮殿」、「レッド」 に続く3つ目の名作誕生。
★★★★★
1995年作品。スタジオライヴ・ミニ「VROOOM」(1994年)に続いて遂に姿を現したフルレンス「THRAK(スラック)」。エイドリアン・ブリューをフィーチャーした、1980年代に近い編成で、前評判では期待と不安が交錯していたが、結果として非常に満足の行く作品に仕上がった。
最大のポイントは、初期の叙情性がある程度復活していること。特に歌モノでメロウな旋律がふんだんに使われている。エイドリアン・ブリューは歴代シンガーの中で一番キーが高く、普通に歌えばクリアな高音の美声シンガー。それがキャッチーで素直なメロディーを歌うため、ポップですらある。
ドラマーとベースが2人居る「ダブル・トリオ」という荒々しい編成はこの際、あまり意識しなくていい。インスト・バトルではうなりを上げるリズム隊だが、ヴォーカル曲では意外と大人しくまとめられており、リズムばかり目立っていた1980年代の姿はない。
ジャズの影響を感じさせる不協和音を効果的に使ったインスト曲は、評判通りのメタル・クリムゾンだし、一転してヴォーカル曲は、描写力の高いメロディーでどれも良い曲に仕上がっている。
のっし、のっしと歩く恐竜を見事にサウンドにした「ダイナソー」、この世の中を動かす歯車=人間を醒めた目で眺める「People」、「宮殿」のダークさを思わせる小曲「Inner Garden I&II」、浮遊するメロディーの「Walking On Air」、そして相反する物を対比した、不思議な詞の切ないバラード「One Time」…。
インストだけじゃダメという人でも、これだけ歌として良い曲が揃っていれば納得するであろう。クリムゾンにしては優等生すぎる…批判したがるファンはそう言うかも知れないが、素直に、良い曲が多い作品だと思う。「宮殿」、「レッド」に続く3つ目の名作が誕生した!と言わせてもらおう。
ダブルトリオの初作品で最後のフルアルバム
★★★★★
今作の予告編としてヴルームが発表されていたので、聴き比べが出来るのだがこじんまりとまとめられた感が強い。しかし1曲目のヴルームはビートルズミックスと題されて、LRに各人の音が振り分けられている。これもクリムゾン初の試み。今作発表前にはツアーもしており、曲が成長したのが見受けられる。このアルバム発表後に6人でのスケジュール調整が難しい、コストがかかる等から、クリムゾンは次期クリムゾンの開発、調査の為にプロジェクトシリーズを行う。結果ブラッフォードのアコースティックへの回帰、レビンの多忙な事から脱退ではなく、離脱。ダブルトリオは幕を閉じる。