食傷気味だが、悪くない。
★★★★☆
お馴染みのマイケル・ムーア監督がメガホンを握る米国問題提起作。今回のテーマは「国民保険・医療」についてだ。
日本では基本的に実費として3割を支払って生活している生産層が殆どであると思われる。ただし製薬会社と病院の癒着等により本当に医療が必要な人々が苦しい生活を送っていることは事実だ。また、移植手術などによる高額費用を支払うことができずに募金を呼び掛けている記事やテレビも目にする。それでも全世界10位(2000年)と決して低くない水準を保っているのは平均寿命や病院や診療所の多さが答えを出しているだろう。何のかんのいいながらも決して恵まれていないわけではない。
一方、米国は基本的に自由診療であるから、映画にもあるように5000万人もの国民が適切な医療を受けられず、民間の保険会社に入れない場合は救急車を呼ぶこともままならない。特に映画の後半9.11で献身的に仕事やボランティアで自らの身体をも犠牲にしながら立ち上がった人々に対してのあまりにも残酷な仕打ちは、心底呆れた。ユーロ諸国やカナダとの対比はあまりにも目に強く焼き付く。(キューバは海外の留学生が医師になるのも基本的に無料だ)
ムーアお得意の皮肉を込めた過去の映画や映像を交えながらカット割りを多くし、間口を広げながらも米国民の悲痛な叫びにはしっかりと正面から見据えている視線にも好感がもてる。私は普段あまり医療の恩恵には近くない生活を送っているが、今後はどうなるかわかならない。他人事ではないのだ。日本がおける現状も決して甘くはない。これは娯楽ではないが、映画として重要な位置づけでもある。少しでも多くの方に観てもらいたい。
世界第1位の医療を誇るフランスの話は特に興味を引いた。確かに税金や労働の問題もあるから、生活において一概にそれだけを基準とするのは如何とも思えるが、普通の生活のため、医療や保健は重要な要素であることに違いない。幸せの定義を自由と引き換えに、やりたい放題の米国は利権を得る一部の既得層もろとも考え直す必要がある。大統領選が楽しみだ。そして日本も同様に。
「過激」ではなく冷静に米国を見つめるムーアの大作
★★★★★
かなり長いドキュメンタリーだが、長いことには意味がある。
映画の導入部分では、保険を持たないために自分でパックリ割れたヒザの肉を縫う男のビデオが映し出される。保険に入れないアメリカ人の話かと思うとそうではなく、保険に入っていたにも関わらず、収益を求める保険会社が高額な出費を回避するためにさまざまな理由をつけて切り捨てた、「手術をすれば助かった命」の話や、「被保険者に不利な情報を見つけて支払いを断る」仕事をしていた人たちの話が次々と続く。その大半は信じられないようなエピソードだ。
ムーアは他の国の実態を知るために、イギリス・フランス・カナダなどの国を訪れる。カナダにいるムーアの親戚は、「アメリカで怪我でもしたら大変」と言って、保険に加入する前に川を越えて米国入りすることを拒否する。イギリスの病院では、患者たちが会計をする場所を探し回り笑われるムーア。フランスでは子育てをする家に週数回、なんでも手伝ってくれる人が政府から派遣されることを知り呆然とする。そして自国アメリカでは、同時多発テロで救援活動にあたって呼吸器障害をわずらった人たちと出会う。彼らはニューヨーク市の住民・職員でなかったため、政府のアフターケアも受けられず、仕事もままならない状態となっていた。
ムーアのナレーションは冷静だ。グアンタナモのテロ容疑者収容所に、容疑者らの治療を無償で行う素晴らしい病院があると聞いて、それまで出会った患者たちをボートに乗せてグアンタナモに向かうムーア(もちろんサイレンで追い返される)。その後、患者たちが「敵国」と聞かされて育ったキューバで、今まで受けられなかった医療の恩恵にあずかる場面は感動的だ。もちろん永遠にキューバにいられるわけではないだろう。しかし、病気の原因を突き止め、一時的とはいえ命をつなぐ薬を格安で購入できた患者たちの喜びの表情には涙せずにはいられない。病院に行ける、という私たちにとって当たり前のことが、どれだけ有難いことなのかを実感した。
「先進国」アメリカが弱者にどれだけ冷たいかを、ムーアが極めて客観的な切り口で映した素晴らしいドキュメンタリー。この映画は、国民皆保険を実施しようとするオバマ政権の大きな後押しとなっただろう。
アメリカの医療保険制度を風刺的に描き、実に面白い!
★★★★★
これを観れば、アメリカの医療保険制度がいかに劣悪な制度かよく解ります。
イギリス・フランス・カナダ・キューバの制度との比較などもすこぶる興味深く、福祉に関心のある方には絶対にお勧め。
翻って我が日本の医療保険制度は?
これを観れば、アメリカのマネだけしてればいい時代は唐の昔に終わったんだという事がとてもよく分かる。
アメリカの医療制度に疑問
★★★★☆
このDVDは、一見に値する。
アメリカ人は殆んど見ていないのだろうか?
新経済主義の医療面でのいやらしさが良く分かる。
アメリカのHMOに切り込んだ初めての映画。
★★★★☆
まずアメリカには国民健康保険がない。これは現在もクリントンやオバマが国民保険実現に頑張っているところだが、大国なのにおかしなことだ。アメリカに行くとわかるが、ドラッグストアの薬剤師のプライドが高い(えばっている、とかじゃなくて意識)。日本でいうところのドラッグストアは、特売のティッシュを店頭に並べるのも薬剤師の仕事だが、ウォルグリーンの薬剤師は並べない。その代わり、保険のないお客さんの「医者」として機能している(もちろん治療行為はできない)から社会的地位も高いのだ。実際に自分が熱を出して、ドラッグストアに駆け込んだら、薬剤師は自社のPBじゃなくて「あなたの症状ならこれだ」と、エキセドリンを勧めた。それからは個人的にもドラッグストアを信用するようになったのだが、国民が健康を小売業に頼らなければいけない状況の原因は、やはりHMOにあるだろう。かかりつけの医者を経由しないと病院も選べないシステムは映画でも紹介していたが、このかかりつけ制度自体はよい。しかし、中産階級以上じゃないと加入できないのが難点だろう。日本でも状況は同じだが、何しろ健康保険があるからね。本DVDは特典ディスクの充実度も凄い。これでもう一作作れそうな勢いで(笑)。新政権になったからこそ観る価値のある映画です。