国策の影
★★★☆☆
遅ればせながら夕張の財政破綻に興味を持ち、
手に取った数冊の内の一冊。
ニュースや新聞から受けた印象では、
夕張の財政破綻は市の乱脈経営が最大の原因だと思っていた。
具体的には、炭坑閉山後の後処理対策がうまくいかなかったこと、
レースイスキー場やホテルシューパロの失敗が挙げられる。
またそれらの赤字を粉飾し、先送りしてきたのも事実であり、
その点で夕張市は責任を逃れられない。
しかしいくら粉飾したとはいえ、財政規模約40億円の市が
632億円もの債務を抱えるとはどういう状況なのだろうか。
市にも当然監査役がいるだろうし、北海道も「北海道産炭地域振興センター」を
通して基金を提供してきた以上、把握し得る立場にあった。
つまり国や道の指導のもとに、リゾート開発等の炭坑閉鎖後の町づくりを
行ってきたという経緯があるのである。
それが、急に手の平を返されたかのような財政破綻。
縮めて言うと、これは小泉内閣が進めた「三位一体の改革」の
影響によるものという。
地方交付税任せの市町村が、突如としてその庇護から切り離され、
その衝撃をまともに受けてしまう。
世間的には「乱脈経営」「ヤミ起債」などと叩かれるが、
国策の犠牲(みせしめ)という一面も見受けられる。
夕張市の財政データが豊富に用意されているが、
この値段(1429円)にしてはページが少ないと思ったので
星3つとした。
未来志向の書であることを評価したい
★★★★★
夕張問題は、夕張の問題ではあるが、夕張だけの問題ではない。本書は次のような後世になっている。
(1)「夕張問題」の全体像を見渡し、この問題がもつ政治的、社会的な意味を明らかにする。まず、財政破綻の三つの原因を挙げる。炭坑閉山後の処理負担、観光・リゾート開発とその後の財政負担における国・道庁の責任転嫁を指摘する。その反面、第二の夕張にならないようにという、「見せしめ」効果が浸透する。夕張市と市民への憐れみではなく、全国的な標準課題が凝縮された焦点として、真摯に受けとめることを求めている。
(2)経過を追って財政破綻の本当の原因を探り、ここに追い込んだ国と北海道庁の責任を明らかにする。主な要因が「地域基幹産業の潰滅」と「炭坑閉山跡処理対策の過重さ」、更に「リゾート開発の破綻」「三位一体改革による地方交付税の削減」について詳しく検討している。
(3)財政破綻の真犯人とされている夕張市行政に焦点を当て、問題点を指摘するとともに、
「真犯人」説の真偽を明らかにしている。道には、弱小団体の「自己責任」論を強調するのではなく、自ら連携・協働していく姿勢が求められると指摘している。
(4)財政再建だけでなく、夕張のまちが再び希望のもてる「住み続けたいまち」となることを願って、夕張の再生について「提言」を行っている。「夕張市財政再建計画」だけでなく、「夕張再生計画」をつくる財政再建を「新しい理想都市像」実現の好機に転換する。
このように、本書は再生のために前向きに考え提案し、未来志向の書であることを評価したい。