ネネは彼氏であるヒムロが、自分のことを「目下(もっか)の恋人」と他人に紹介するのが気に入らない。「当面の」という意味にひっかかりを覚える彼女は、ある日、祖父の見舞いに出かけるというヒムロに強引について行き、そこで意外な真実を知らされる(表題作「目下の恋人」)。
10のストーリーは恋愛や友情、結婚、家族といった、人と人との関係がもたらすせつなさや哀しみを描く。若者たちの緊迫した人間関係を写し取った「バッドカンパニー」。不倫の果てに放浪を繰り返す女の生き様をエネルギッシュなタッチで描く「偽りの微笑み」「青空放し飼い」「王様の裸」の3部作。主人公たちはいずれも不器用に愛を求めてさまよう人々だ。
注目すべきは、2001年9月のアメリカ同時多発テロ事件をモチーフとした「君と僕のあいだにある」と「愛という名の報復」の2作をはじめ、「優しい目尻」や「目下の恋人」など、テロ事件以降に書かれた作品には、せつなさや哀しみだけではなく、ほのかな希望が見え隠れするようになっている点だ。本書は、これまでの辻作品のエッセンスを凝縮していると同時に、辻の新たな挑戦をも予感させるものとなっている。(中島正敏)
表題作の「目下の恋人」は、なんとも予定調和なストーリーで、読み始めた瞬間からラストが予想できてしまった・・・。
著者は男性なのに、女性の主人公を何の違和感もなく書いてしまうところは凄いと思ったが、それにしても馬鹿な女ばっかりで、やっぱり男が書いてるんだなあと思った。というか、この人は馬鹿な女が好きなのだろうか?
全体的に結構面白く読めたが、ネタがかぶっている作品もあったので評価は低めです。
著者、辻仁成は2000年に南果歩と離婚し、2002年に中山美穂と再婚します。911テロを挟んだこの激動の時期に書かれた本短編集は、それらの影響が顕著に出ています。テロと作家の離婚の問題を同時進行で描いた『君と僕のあいだにある』『愛という名の報復』は、深読みすれば面白いかもしれません。
また『好青年』は後に同じ登場人物、ストーリーをベースに、長編小説『サヨナライツカ』へと発展する作品です。そういった「辻仁成研究」をする上では外せない一冊です。
ちなみに表題作『目下の恋人』は、青春を感じさせる、純粋さが気持ちの良い作品でした。