悩殺
★★★★★
自分はもうユーレイルパスのユースが使える年を過ぎている。
幾つかの国のW.Holidayには応募資格がないし、ミチルのように
ユースホステルの宿泊を断られることも近い将来あるんだろう。
旅をして、人と出会い、再生していく、
この小説は言ってみればごくありふれたロードムービーだ。
今やユーゴという国はないし、ユーロ圏の成立と拡大によって
両替の手間と不便はなくなってこういう旅はいっそうし易くなっ
たかもしれない。
猫背を読んだあと、マラケシュ心中を読み、その後の天使〜で
あるせいで読後感が若干混濁しているがもうそんなのどうでも
いい。天使で埋め尽くされている場所が円形闘技場なのかフェズ
のメディナなのか分からなくなりそうだ。
ありきたりの20代後半の女子は覚悟して読め。
強烈に、旅に出たくなる。
いつか赦されるための旅
★★★★★
中山可穂の本はうかつに読んじゃいけない。胸が痛くて、涙が止まらなくなるような、死にたくなりそうな恋の話は、気持ちを揺さぶられて、私のほうが死にたくなって、立ち直れなくなる。
演劇と恋人と、そのどちらも失ったミチルは、やむをえず旅に出る。天使に手招きされながら、誇り高く日本を出る。死ぬと言われた西へ向かって。
トルコからヨーロッパを、ユースホステルに泊まり、ユーレイルパスで移動する、旅だ。旅ののっけから死に掛かっているところが、なんとも愛しくなった。
不器用で、潔いから余計に不器用で、誇り高いのに無様な姿をさらしながら、傷ついても茨の道を歩むことをやめやしないのだ。
どんなに涙を流し、胸をかきむしり、自らを痛めつけたとしても、どうしても生き延びてしまう。何度ボロボロになっても、また恋をする。中山の描く主人公は、そんなタフさを持っている。
主人公と一緒にボロボロな気分を味わうかと思ったら、途中から元気になってしまった。これは、死と再生の物語だったのだ。
ヒリヒリする
★★★☆☆
ある意味、無防備な作品。それが欠点でもあり、魅力でもある。
最高傑作
★★★★★
中山可穂さんの最高傑作です。
この方の作品はすべて読んでいますが、これにまさるものはなく、またこれを読めば、中山さんのすべてがわかります。
自分しか書けない作者が、自分をきっちり書いた自分小説。
何回読んでも、何回読んでも、また読みたくなる作品でした。
良くも悪くも
★★★★☆
良くも悪くも大変わがままな作風である。中山氏の作品に登場する人物はいつも自己中心的で、思いこみが激しく、気性が荒い。触れたら切れそうな鋭いナイフのようで、他者を寄せ付けないところがある。しかし、その生き方の激しさゆえに読み手を惹きつけてやまないのもまた事実だろう。
私もそんな読者のひとりではあるが、今回本作を読んで、この作品の前作「猫背の王子」を読んだ時よりもミチルのわがままさに辟易すらしてしまった。単に私の求めるものが変わってしまったからだろうか?ミチルによりひたむきで熱い生き方を求める一方で、いい加減にすれば?と語りかけてしまう自分もいた。なんだかミチルがわざと世間に背を向けて生きているような気がして…。
ストーリー展開に関して言えば、登場人物たちを著者の思いのままに動かすために、まるでとって付けたような少々“ご都合主義”の箇所が目立ち、気にせざるを得なかった。
著者の最近の作品もこういったスタンスのままなのは否めないだろう。中山さんは、こんなふうにしか生きられない人なのかな。そんなふうに感じながらも、結局は読んでしまうのだけれど。