なんでこんなに泣けるんだろう
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中盤を過ぎたところから、ページを繰るたびに涙が出ては文字が読めなくなった。
本を読んでここまで泣いたことは、ついぞ思い出せない。
知り合いの訃報を聞いたときに流せなかった涙を、ようやく流すことができた。
偽装結婚に養子縁組。
そこに血の繋がりはない。性の関わりもない。でも、愛なら。
目前に不在の人への愛だけで結ばれた家族は、だから、とても聖なる家族、奇跡のような家族だ。
愛という神に捧げられた犠牲のようなものだ。生きることは祈ることに似ている。
彼ら、聖別された家族が、いつまでもその神を忘れずにいられたらいい。
愛が生活に飲み込まれることへの恐れや、心が壊れてしまいそうなぐらいに大きな喪失体験。音楽という芸術の高揚や、さまざまな人との出会いの妙。愛し愛されて、別れを重ねながら、今ここにいる自分というもの。
作者の主題はピアノの音に彩られ、とても美しい祈りと慰めに満ちた小説になっている。