昭和の空気感
★★★★★
輪廻転生の物語として本多の発見の場面は感動的で、滝は終焉に向かっての一つの装置として機能して行きます。戦争とゆう壮絶な論理の中で美しく生きようとする若者のエネルギーと、次の転生に向かうエネルギーが絡み合い最後のリアリティーへと、、、これぞ文学。
神道のお勉強かも
★★★★★
「春の雪」は仏教の輪廻転生のお勉強。
「奔馬」は神道の勉強。
これで大学の文化史1のお勉強は完結です。
「生きて死ぬ」その命に限りはあり
人は死に怯え老いに怯える。
人生の時間を「奔馬」のごとく走り抜ける。
主人公は走り抜けます。
どんな走りっぷりかは読んで見てください。
滝の下をみて「ぞくっ」ときました。
生きて死ぬとはなんですかね?
それは自分の人生を生きて知っていくのでしょうかね?
最後の一行のために
★★★★☆
最後の一行の美しさが素晴らしすぎる名作。
飯沼勲という主人公の一生が、素晴らしい文体、構成のち密さによって描かれています。
これを読むことで思春期に生起し、消えていった様々な感情、消えていった純粋な思いを喚起できたことに感謝してもし足りないほどです。
また、「豊饒の海」と言った作品の中でも、もっとも激しく、強く、美しく目に写る作品だと思います。
思想をもって生きる
★★★★★
三島作品において共通で言えることは、
全てにおいて無垢で純粋であるということ。
でも決して綺麗事だけを飾り立てている訳ではなく、
激情も鬱屈した感情も狂気も、ただ全ての根源が純粋であるという事に尽きます。
【豊饒の海】の第2部です。
シリーズとしての【豊饒の海】も大好きですが、
この2部【奔馬】がずば抜けて一番だと思うのです。
簡単に言うてしまうと、腐敗した政治と疲弊した社会を改革するために暗躍する少年の話。
今で言うとこの、右翼テロ的な。
思想そのものはバリバリに右寄りで、特別共感できるものではないんですが、
人が強い思想を持った時に何を感じて何を行動するか、
何を信じて何を目標とし、最終的に何を望むのか。
その掛け値なしの純粋な情熱と思想に、ものすごい衝撃を受けました。
思想を持って生きて、思想のために死んでいくことは、
思想なくして生きていくよりもずっと幸せな事だと思えます。
やっぱり魂が生きてこそ、人は生きていて、
思想なくして、生きていくことはできないと思うのです。
その全てを証明が、最後の一行に集約されていたりして…。
ほんま天才!
最晩年期の最高傑作
★★★★★
『春の雪』の手弱女ぶりから一転しての益荒男ぶりである。
積もることのないはかない春の雪に対して、荒々しいまでの奔馬。
前作で、清顕が眺めるばかりであった剣の道に励む男たち。
本作はその、『同化できない』と眺められていた男が主人公である。
’豊饒の海’は四季を表しており、勲はまさしく夏にふさわしい若者だ。
後半で、本多が判事の仕事について思いを巡らせる箇所などは
裁判員制度が始まる現在、もっと人口に膾炙すべき名文である。
新潮文庫P.383の後ろ6行目〜3行目。
もし自分が裁判員に当たった時、この4行を肝に銘じて臨みたいと思っている。
この煮えたぎる熱を持つ小説中、一か所だけ冷水を浴びせかけられたのようにぞっとした
箇所が、軍人下宿を営んでいた北崎老人の法廷での証言の所であった。
読んでいて非常に怖かった・・・。
この本が書かれてから40年が経とうとしているが、三島由紀夫の血潮、
その熱が身に降りかかってくるかのようである。
何回も読みこみ、時を経てまた読みふけり・・・。
一生つきあっていきたい作家である。