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青い城 (角川文庫)

価格: ¥778
カテゴリ: 文庫
ブランド: 角川グループパブリッシング
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死を見つめたことではじめて生きたヴァランシー ★★★★★
ヴァランシー・スターリングは、29歳のオールド・ミス。

彼女は、実家で一族の者たちを顔色を窺うように生きているような女性だった。

具合の悪かった心臓を診てもらいに医者に会いに行ったのだが、
なんとその時は、医者の息子が事故に遭ったと連絡があったところ。

彼はすっかり動転してしまっていて、ヴァランシーはちゃんと診てもらえない。

医者にすらきちんと相手にされないのだと落ち込むヴァランシーだったが、
その後衝撃の手紙が彼女のところに届く。

そこには、狭心症のために余命1年と書かれていたのだ。

だが、彼女は、ここで大きく変わるのだ。

  死を恐れていないといっても、それを無視するわけにはいかない。
  ヴァランシーは、死を恨んでいた。
  生きてきたという実感もないのに、もう死ななくてはならないとは、いかにも不公平だ。
  暗闇の時間がすぎていくにつれ、彼女の心の中には反抗の炎が燃えあがってきた。
  それは、彼女に未来がないからではなく、過去がなかったからだ。
  (中略)
  あたしは、いつも、ぱっとしない、取るに足らない者だった。
  そう言えば、こんなことを何かで読んだことがあるわ。
  女には、それで一生幸福だと感じる一時間がある、
  それは、見つけようと思えば見つけられるものだ。
  でも、あたしには見つけられなかった。
  もう、決して見つけられないんだわ。
  ああ、もしその一時間があたしのものになったら、いつ死んでもいい。

この燃え上がるような気持ちに強く強く共感する。

私は、決して、抑えつけられて生きてきたわけではないのだが、
生きたい、生きたいと思ってしまうのだ。

この思いは何なのだろう。

彼女は、家を出て、「がなりやアベル」と呼ばれる老人の家に住み込み、
アベルの娘で、胸の病で余命いくばくもなく、また、過去の心の傷により、
ほぼ人づきあいをしなくなっていたシシィの看病をするのだ。

彼女自身も死を意識しながら、同じく死に臨もうとするシシィを看病する。

ふたりは心を開いていき、そして、ヴァランシーはシシィを看取る。

彼女が幸せそうに死んでいく姿をヴァランシーは「なんと美しい!」と思う。

実家に住んでいる頃から、なぜか気になる存在だったバーニイ・スネイスに、
彼女は病のことを打ち明け、自ら結婚を申し込む。

なぜなら、彼女は気づいてしまったから。

  今や、ヴァランシーは自分がバーニイを愛していることをはっきりと知った。
  きのうまでは、彼女は自分だけのものだった。だが、今はもうこの男のものだ。
  しかし、彼が何をしたわけでもない―何を言ったわけでもない。
  彼女を女と見てくれもしない。だが、それはどうでもいいのだ。
  彼女は無条件に彼を愛しているのだ。彼女の中のものすべてを彼に捧げるのだ。
  もはや、この愛をおさえつけたり、否定したりすまい。
  ヴァランシーは自分があまりにも完全に彼のものだという思いがして、
  彼以外のことを考えること―彼のことを考えずして物事を考えること―すら
  不可能な気がしていた。

もし、自分の命があと1年しかないのだとしたら、いったい自分は何をするだろう。

いや、自分の命が1年しかないとして後悔しない生き方を自分は今しているの?

そう考えずにはいられない。

ヴァランシーに深く共感する点は、さらに2つある。

ひとつは、タイトルにもある「青い城」の存在だ。

現実がどんなに苦しくても、誰しも、自分だけの世界を持っている。
たとえ、呼び名は違っても。

そして、心の支えとして、本があったこと。

彼女は、ジョン・フォスターの本の影響を受け、
その本の言葉が、決断を促したり、
過去のしがらみに戻りそうになってしまったときに気づかせてくれたりする。

「世の中のほとんどすべての悪は、その根源に、
だれかが何かを恐れているという事実がある」や

「もしあなたがある人と、三十分間口をきかずに座っていられて、
その上なんの気まずさもないのなら、あなた方二人は友達になれる」など。

作中作家であるジョン・フォスターは、印象的な言葉を残している。

自分にとってちょっと意外だったのは、
本書の語り口がかなりの毒舌で辛口だったことだろうか。

私は毒の強いものはダメだと思っていたのだがそうでもなかったらしい。

身近なある友人に似ているこの語り口をにやりとしながら読了した次第だ。

その友人とモンゴメリはどこか似ているのかもしれないと思ったのだった。

自分の心の支えとしての自分だけの世界と本と本読み本語りを共にできる友だちの存在。

リアルはいろいろなことがあったし、これからもいろいろなことがある人生だけれども、
本当に必要なものはちゃんと求めてきたし、ここにあるんだと感謝したいと思った。
思わぬ転回に感動! ★★★★★
西洋ロマンス小説が好きでハーレクインを筆頭にたくさん読んでいます。
最初は皆さんの通りヒロインの親族又は自身に対する愚痴が続き
読み手の私も少々辟易して読むのやめようかな…と思うほどでした。

しかし具合の悪いヒロインがある著名な医師に観てもらったところ
余命残り少ないことが判明します。
それからの一転したヒロインの変化がまず面白くて笑ってしまいました。

その後ヒロインは薄幸な友人を看病するなどその優しさにも共感を得ました。
愛するヒーローの出現と自らするプロポーズ!
ヒーローの過去が謎とされ(前科者など悪口を言われている)
ハラハラしましたが最後の転回は圧巻です。
美人ではないが自然が好きで心優しいヒロインに感情移入し一気読みでした。
さすがモンゴメリ!素晴らしい作品です!
一生に一度、自分だけの泥まんじゅうを。 ★★★★★
主人公ヴァランシーのこの気持ちに打たれて、最後まで一気に読めました。非常に面白い作品でした。
泥まんじゅうというのはまぁそれが『青い城』に象徴される、実り豊かな人生のもたらす果実のようなものを指すのでしょうが、
誰のものでもない、自分だけの「それ」が欲しいと、狂おしいまでに求める彼女の願いには心を打たれます。
神とは、生きることとは、的な、重々しく考えさせる小説も良いですが、こういった一見軽いタッチで、実は人生の意味に迫る作品もいいものですね。
自分の境遇やこれまでの生き方、価値観などに投影させて、より身近な気持ちで読むことが出来ました。
軽やかで明るく読みやすく親しみやすい作品の中に、しっかりと人生訓とも言えるものを織り込めるモンゴメリの凄さに改めて気づかされます。
人生訓と言ってもそれは決して押しつけがましくなく、まして独善的でもない。
(ああ、そうだよね、それが大事なんだよね)と、自然に納得出来る、誰にでも通じる普遍的なもの。
間違った方向に行きそうになっても、何が大事か判らなくなっても、彼女の作品を読めばきっと正しい道へ導いてくれる、そんな気がします。

さて、本作はまさに「読んでのお楽しみ!」的作品の王道を行く小説です。
29歳の行き後れほぼ決定娘・ヴァランシーが、自分の病気を機にそれまでの生き方を180度転換させる―というもの。
彼女のそのあまりの変わりように、母親をはじめとして、おじ・おば・いとこ・いとこの子供らなど、やや俗物度の高い一族はみな狼狽。
一方、誰からも期待されない、温かい関心を持たれない、自由意志など許されない、そんな生活にキレた彼女のそのキレっぷりは見事なほど。
これじゃあ当時の基準では尚のこと頭が完全にどうかしてしまったと思われても仕方ないかもね(苦笑)
他の方のレビューにもありますが、最初の方のヴァランシーのこれまでの恨みつらみの数々を読まされるのは少々苦痛です。
あまりのウジウジっぷりに少しイラッと…(笑)まぁそれがかえってキレた以降との鮮やかな対比を成している訳ですが。
我慢して我慢して我慢して、でもある日プツっとそれがキレるというとても現代的な事象を100年前に書いているのがすごいな。
(男性に愛されたい)と強く願う女性像の出現というのも、本作の発表年代(1926年)を考えると何かとても新鮮な気持ちがします。
前世紀の小説ではそういう女性像はほとんど見られませんので、これも新しい時代の空気を反映しているのでしょうか。
自分に正直に生きることを決めたヴァランシーの『青い城』が何なのか、以降それが次第に明らかになっていきます。

伏線の張り方がわりあい露骨である程度先が予見出来るので、ドキドキしつつも安心して読める作品と言えるでしょう。
非常にモンゴメリらしい筋立て・小道具の使用・人物の状況設定なので、もの足りないと感じる方もおられるかもしれません。
自然描写の多さに少し戸惑いますが(言葉でいくら説明してもこういうものを人に伝えるのは難しいと思うので)、
まるで目に浮かぶように詳しく描かれているので、豊かな自然や移り替わる季節、朝⇔夜へと移り替わる時間がよく伝わって来ます。
特に部屋に西日が射してくる描写や静まり返った夜の描写などは素晴らしく、自分もその場に居合わせたいと思わせるものがありました。
こういった感じの作風がお好きな方でしたら、楽しい数時間を過ごせる小説であることはまず間違いない作品だと思います。
一度しかない人生、どう生きるにしてもやっぱそれが楽しいものであるようにしたいな、心からそう思いました。
ロマンティック ★★★★★
オールド・ミスの話なんでロマンも夢もない!
と思いながら読み始めましたが、読み進むにつれどんどんページをめくる速度が増してしまいました。
やはり、モンゴメリ作品。
夢もロマンもいっぱいの幸福感を味わえる良質な作品でした。

他の方も書いてらっしゃいますが、冒頭の主人公の生い立ちの説明が長くやや退屈ですが、飛ばさず読むことをお勧めします。
主人公の置かれてる状況を理解することで、後半部分をより深く理解できますし、主人公の変貌ぶりを心から喜ぶことができます。

ラストは期待通りの展開ですが、1つだけびっくりすることがありました。
ここでも最初の部分をきちんと読んでいないと驚けません。
え、コレがそこにつながるの!!という感じです。
最初から丁寧に読んでいて良かったなとと思いました。
素敵なハッピーエンド ★★★★★
楽しい作品でした。冒頭、主人公の29歳のオールド・ミスのヴァランシーの愚痴から始まります。これが、延々50ページぐらい続くので、読んでいて忍耐が必要です。でも、その忍耐は必ず報われます。それまでの引っ込み思案の言いたいことが言えない冴えない女性から一歩ずつ進んでいく姿に、読み手もヒロインに感情移入していけます。
まさに「命短し恋せよ乙女」です。「赤毛のアン」を読むと、カナダの美しい自然にも魅せられますが、この「青い城」でも美しい自然の描写は健在です。美しい自然の描写とともに、どんどん素敵になっていくヒロインに好感が持てます。
さわやかな読後感でした。